不動産投資

不動産投資「5棟10室」のメリットとは?知っておきたいデメリットや判定例も

不動産投資の世界では「5棟10室」という言葉がよく用いられます。これは不動産投資家の事業規模を示すもので、「建物なら5棟、区分所有物件なら10室」を意味します。この「5棟10室」を超えると事業的規模であると見なされ、税金面で有利になることから、多くの不動産投資家は「5棟10室」をひとつの節目と考えています。

ただし、「5棟10室」を超えて事業的規模と見なされると、メリットだけではなくデメリットもあるので、注意が必要です。本記事では、多くの不動産投資家が目指す「5棟10室」について、メリットとデメリットの両面から解説します。

不動産投資「5棟10室」のメリットとは?知っておきたいデメリットや判定例も

1.「事業的規模」とは

不動産投資では、「5棟10室基準」というものがあります。戸建て住宅を対象に投資を行う場合は5棟以上の所有、アパートやマンション投資を行う場合は10室以上で、「事業的規模」と認められるというものです。

この基準では、一戸建て1棟とアパートやマンション2室が同等です。一戸建て2棟と区分所有の物件6室の組み合わせという場合、事業的規模として見なされることになります。また、アパートなどを丸ごと1棟所有しているような場合、その部屋数が10室を超えていれば、これも事業的規模にあたります。ちなみに駐車場は5台分で1室と見なされます。

なお、確定申告には白色申告と青色申告の2種類がありますが、そのうち主に事業者が選択するのは税金面でのメリットが大きい青色申告です。つまり、事業的規模としてのメリットを最大限に享受するためには、青色申告を行う必要があります。

事業規模とは

2.「5棟10室(事業的規模)」になるメリット・デメリット

事業的規模と見なされる「5棟10室」になると、何が起きるのでしょうか。ここではメリットとデメリットの両面から解説します。

2-1.「5棟10室(事業的規模)」になるメリット

不動産投資において「5棟10室」の事業的規模になると、考えられるメリットは主に3つあります。

青色申告特別控除65万円が利用可能

最も代表的な優遇措置は、青色申告特別控除という65万円の所得控除が受けられることです。これは不動産所得を65万円分控除できるもので、不動産による所得を65万円圧縮することができるため節税効果があります。事業的規模でない場合でも青色申告をすれば控除が受けられますが、その場合の金額は10万円なので、事業的規模になるだけで55万円も控除額が多くなるのです。

家族への給与が経費に

事業的規模が認められて青色申告を行う場合、家族への給与支払いが、経費として認められるようになります。そうすると、不動産所得が分散されるため、家族全体の所得税を下げることができるのです。ただし、実態に基づかない過剰な給与の支払いは税務署で否認される可能性があるので注意しましょう。

なお、白色申告でも事業的規模が認められれば、配偶者は86万円、配偶者以外の家族は50万円という制限付きではあるものの、支払った給与を所得から控除することが可能です。

取り壊しなどによる損失を最長3年間繰り越しが可能

不動産投資を行っていると、場合によっては建物の取り壊しなどが発生し、各種経費などの損失を計上することがあります。事業的規模か否かを問わず、こうした損失は経費に計上できますが、多くの場合、1年分の所得では相殺しきれません。

事業的規模でなければ当該年度の不動産所得での相殺が限度となりますが、事業的規模になると当該年度の所得で相殺しきれないときは、最大3年間の繰り越しが可能になります。つまり、取り壊しなどに伴う一時的な損失を余すところなく経費として計上できるわけです。

2-2.「5棟10室(事業的規模)」になるデメリット

メリットの次に、不動産投資において「5棟10室」の事業的規模になった際に考えられるデメリットについて解説します。

税金が高くなる

不動産投資が「5棟10室」の事業的規模になることは、1棟や1室の規模でやっていた時と比べると大幅な拡大でもあります。不動産収入が増えるとその分所得税や住民税も高くなります。

こちらは、所得税の税率一覧表です。

課税対象の所得額 税率 控除額
1,000円 から 194万9,000円まで 5% 0円
195万円 から 329万9,000円まで 10% 9万7,500円
330万円 から 694万9,000円まで 20% 42万7,500円
695万円 から 899万9,000円まで 23% 63万6,000円
900万円 から 1,799万9,000円まで 33% 153万6,000円
1,800万円 から 3,999万9,000円まで 40% 279万6,000円
4,000万円 以上 45% 479万6,000円

出典:国税庁 所得税の税率

所得額が高くなるほど税額も高くなることが見て取れます。例えば所得額が320万円であるのと330万円とでは税率に10%も差があります。

それ以外にも、不動産投資が事業的規模になると事業税の納税義務が発生する可能性がありますし(都道府県によって基準は異なる)、配偶者控除や扶養控除を受けられなくなるため、トータルで見ると節税メリットどころか税負担が増えることにもなりかねません。

節税のために無理をしてまで「5棟10室」を目指したのに最終的な税額が高くなってしまったのでは、本末転倒です。「5棟10室」はあくまでも事業拡大の結果であり、節税のための目標に据えるものではありません

副業禁止規定に抵触する恐れがある

当記事のテーマである「5棟10室」という語句を、別の視点で見ている人たちがいます。それは、副業禁止規定がある公務員や、同種の禁止規定がある企業のサラリーマンです。

国家公務員法第103条と地方公務員法第38条にはそれぞれ、国家公務員と地方公務員は兼業をしてはならないとの規定があります。不動産投資については条件付きで容認されているのですが、その基準が「5棟10室」なのです。不動産投資をしているだけで兼業には当たらないと定義しているものの、その規模が「5棟10室」を超えると抵触する可能性があるというわけです。

これと同様の就業規則を設けている企業についても、不動産投資が事業的規模になると規則に抵触する恐れがあります。

本格的な不動産管理を伴う

個人投資家レベルの事業規模であれば、不動産の自主管理が可能かもしれませんが、「5棟10室」を超えるような規模になってくると投資家個人が管理をするのは難しくなります。まして本業が別にある人だと不動産管理に割ける時間も限られてしまうので、なおさらでしょう。

そのため、不動産投資が事業的規模に拡大したら管理会社を入れるのが一般的です。もちろん事業的規模になる前から管理会社を活用している投資家は多くいますが、それまで自主管理をしていた人であっても事業的規模になればそれも難しいでしょう。

管理会社に委託をすると、管理料が発生します。その分家賃収入も多くなっているとは思いますが、自主管理から管理委託に移行する場合は新たなコストが発生することがデメリットに感じられるかもしれません。

3.「5棟10室(事業的規模)」の判定例

当記事では「5棟10室」という具体的な数値をもとに解説を進めていますが、この「5棟」や「10室」は法律に明記された明確な基準ではなく、あくまでも事業的規模であると見なすための目安です。

その境界線はどこにあるのか、「5棟10室」が事業的規模と判定されるケースと、されないケースを解説します。

3-1.事業的規模になるケース

あくまでも目安とはいっても、「5棟10室」を定義する具体的な通達があります。行政内で見解を統一するために出されたもので、それによると「建物の貸付けが事業として行われているかどうか」の基準として「独立した室数がおおむね10以上であること」、もしくは「独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること」と定義しています。

この通達は国税庁から出されているので、税法上の事業的規模は「5棟10室」以上であるというわけです。なお、建物の1棟を別の不動産では以下のように換算します。

  • 部屋:2室
  • 駐車場:10台分
  • 土地:10筆

ここにある「筆」というのは、土地の数を表す単位です。登記されている数を表すもので、建物のない土地の場合は10筆(10個の土地)が建物1棟分と計算されます。「5棟10室」は5棟もしくは10室の規模をクリアすると認められるので、例えば以下のような組み合わせでも事業的規模と認められます。

  • 建物:1棟
  • 部屋:4室(2棟分)
  • 駐車場20台分(2棟分)

上記の合計は5棟分になるため、事業的規模となります。このように、さまざまな種類の不動産を換算して「5棟」か「10室」を満たせば事業的規模となります。

3-2.事業的規模にならないケース

先ほどの解説を踏まえると、例えば1筆の土地を分筆して10筆にすると1棟分に換算できることになります。青色申告をしたいばかりに土地を分筆して到底人が住めないような広さにしてしまうようなケースは、「5棟10室」として認められません。

かつて、この件が国税不服審判で争われたことがあります。その判断によると、「5棟10室」を認めるためには以下の用件を満たしている必要があると定義されました。

  • 営利性、有償性の有無
  • 継続性、反復性の有無
  • 自己の危険と計算における事業遂行性の有無
  • 取引に費やした精神的、肉体的労力の程度
  • 人的、物的設備の有無
  • 取引の目的
  • 事業を営む者の職歴、社会的地位、生活状況

出典:国税不服審判所 平19.12.4、裁決事例集No.74 37頁

これらを平たい言葉に言い換えると、居住や運用の実態がないような「事業的規模として認められるための工作」は認めないということです。

4.「5棟10室(事業的規模)」は不動産投資家として目指すべき事業規模

不動産投資の規模が拡大するというのは、投資家として事業が順調に成長していることを意味します。その結果として「5棟10室」を達成すれば税金面でも有利になりますし、そのメリットは大いにいかすべきでしょう。

ただし、それには税負担や兼業規定への抵触など、新たなデメリットやリスクも伴います。当記事の解説内容をしっかりと理解し、税金面で不利益を被ることがないようにしたいものです。

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