更新日 :
投資の基本
不動産投資の団体信用生命保険とは?仕組みやメリット、注意点を解説
団体信用生命保険(以降、団信)とは、不動産投資ローンを利用した人が死亡や高度障害となったとき、家族にローン返済の負担が残らないようにする保険のことです。
不動産投資には「生命保険効果」があるといわれています。不動産投資をしている人は生命保険に加入しているのと同じ効果が得られるわけですが、その効果を支えているのが団信です。不動産投資の生命保険効果はとても重要なメリットなので、そのメリットを最大化するためにも団信をしっかり理解しておく必要があります。
そこで本記事では、団信の基本や一般的な生命保険との違い、注意点などについて解説します。また、団信の申込で確認される健康状態や、おすすめの特約などについても見ていきましょう。
1.団体信用生命保険の役割と仕組み
団体信用生命保険は、不動産投資ローンを利用する際に加入する保険です。申込人が亡くなる、もしくは高度障害などによって返済が困難になったときに、ローンの残債が保険金で返済されます。家族にローンの支払いが残らないため、大きな金額を借りるローンではとても心強い保険です。
また、投資物件の家賃収入は続くため遺族の経済的な支えになります。さらにローンがなくなれば、物件を自由に売却し現金化もできます。この団信の仕組みが、不動産投資に生命保険効果があるといわれる理由になっています。
2.団信と生命保険の違い
団信は生命保険の一種ですが、もちろん全く同一のものではありません。そこで、団信と生命保険の違いについて5つのポイントで解説します。
2-1.保険料の支払い
生命保険では決められた保険料を毎月銀行引き落としなどで支払いますが、団信は毎月のローン返済で保険料が上乗せされた金額を支払います。ローンの借入金利に団信の保険料分を金利として上乗せしているため、引落時に返済分と団信分が分けられるわけではなく、ローン返済として一緒に引き落とされます。
後述しますが、団信にも生命保険のように特約を付けることができます。特約を付けた場合は団信の保険料も上乗せになるため、その分もローン金利にも上乗せされる形となります。
2-2.年齢や男女別による保険料
年齢や男女別など、個人の属性によって保険料が異なるのが生命保険の基本です。それは、人それぞれによってリスクが異なるからです。しかし団信にはそういった個人の属性による違いはなく、保険料は一律です。
一般的に年齢が高くなると病気になったり亡くなったりするリスクが高くなります。そのため、年齢が高くなってから生命保険に加入すると保険料が高くなりがちですが、団信であれば年齢による保険料の違いもないので、年齢が高い人は生命保険よりも不動産投資の団信を活用したほうが有利になります。
2-3.保険金の受取人
団信はローン返済中の人が返済困難になってしまった場合の備えとして加入する保険です。ローンの返済が困難になった際に最もリスクをかぶることになるのがお金を貸し付けている金融機関なので、団信の保険金受取人はローンを借り入れている銀行やローン会社などの金融機関です。
これだと加入者(つまり物件オーナー)にメリットがないように思われるかもしれませんが、本来であれば引き続き返済する必要がある残債を団信で清算できるため、残債の金額によってはとてもメリットの大きい仕組みといえます。
2-4.保障される期間
生命保険の保障期間は、加入者が自由に選ぶことができます。定年退職をするまでの期間であったり、一生涯であったり、といった具合です。その保障期間の間であっても状況に応じて保障額を調整することも可能です。
これに対して団信はローンの残債を清算することに特化した保険なので、ローンの返済期間がそのまま保障期間となります。資金的な余裕があってローンの繰上げ返済をした場合であってもローンが残っている限りは、保障も継続します。逆に繰上げ返済によってローンを完済すると、その時点で保障は終了します。
2-5.生命保険料控除
生命保険の保険料は、控除の対象になります。年間に支払った保険料を所得から控除できるため、生命保険を節税に活用することも可能です。
これに対して団信には、保険料の控除がありません。その理由は、あくまでも保険料を支払っているのは金融機関であり、加入者は金利が上乗せされたローンの返済をしているだけだからです。加入者本人が保険料を直接支払っているわけではないため、団信の「保険料」を控除することはできません。
3.どのようなときに団信は実行されるのか
団信は基本的な契約であれば、申込人が死亡するか高度障害になったときに保険金がおります。死亡は病死の他に、自殺や他殺も適用されます。ただし自殺は保険開始日から1〜2年以内に発生した場合は除かれ、殺人は保険金の受取人が事件に関わっていないことなどが条件です。
高度障害は保険会社により条件が異なりますが、一例として次のような定めがあります。
- 両眼の視力を全く永久に失ったもの
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
- 中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 胸腹部の臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 両上肢とも手関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
- 両下肢とも足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢を手関節以上で失い、かつ1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢の用を全く永久に失い、かつ1下肢を足関節以上で失ったもの
実際の手続きでは、回復の見込みがないとする医師の診断が必要です。さらに保険開始日前より生じていた障害や疾病を原因とするものは除かれます。またよく誤解されますが、就業不能かどうかは保険適用の条件と別の場合があります。団信加入の際は詳細な条件をしっかり確かめるようにしましょう。
3-1.団信でローンが完済される流れ
ローンを返済中の人が亡くなったり高度障害などになったりして返済不能となった場合に、団信に加入している保険会社から保険金が支払われます。具体的には、以下のような流れでローンが完済されます。
- ローンを組む際に、金融機関が団信に加入
- 返済中(保障期間中)に死亡もしくは高度障害によって返済不能が確定
- 団信の保険会社から金融機関に保険金が支払われる
- 金融機関は受け取った保険金でローンの残債を清算
- 加入者もしくは遺族には残債のない収益物件が残る
この流れで押さえておきたいポイントは、団信があるおかげで収益物件を手放すことなく持ち続けられることです。高度障害などで本人が存命の場合は本人の手元に残債なしの収益物件が残り、本人が亡くなった場合であっても遺族に残債のない収益物件が残ります。
4.団信のメリット・デメリット
団信には万が一の事態になってもローンの返済義務がなくなるなどのメリットがありますが、その一方でデメリットもあります。ここでは団信のメリットとデメリットを整理しておきたいと思います。
4-1.団信のメリット
団信のメリットは、主に2つあります。
- ローンが返済不能になっても残債の返済義務がなくなる
団信の最大のメリットにして、最大の役割は、ローンを返済している人に万が一の事態が起きた時にローンを完済できることです。ローンを借り入れている人や家族(遺族)にとっては残債のない収益物件が残りますし、金融機関にとっても回収不能を回避できるため、双方にメリットがあります。
- 所得税の納税義務がない
団信の保険金によって残債のない不動産が残るということは、それを受け取る人には経済的利益が発生します。この利益のことを、債務免除益といいます。
普通の生命保険であれば満期の一時金などを受け取ると所得が発生したとして所得税の課税対象になるのですが、団信で得られた債務免除益には所得税の課税義務が発生しません。
4-2.団信のデメリット
一方で団信のデメリットとして考えられることは、主に次の3つです。
- 保険料の所得税控除はない
すでに解説しているように、一般の生命保険で払い込む保険料に対しては所得税の控除が認められますが、団信の場合は控除の対象外です。
なぜなら、団信は金融機関が保険料を払い込む保険であり、ローンの借り入れをしている人は団信の保険料分を金利として上乗せされた分を返済しているだけだからです。直接の契約者ではないため、団信の保険料は控除の対象にはなりません。
- 生命保険と比べると保障内容は手厚くない
生命保険は死亡保障だけでなく、医療保障や入院保障など、実に多彩な保障を選ぶことができます。時代の変化に応じて必要性が高まっている保障を選べるようになっているなど商品としての完成度は高いですが、団信にそこまで手厚い保障は期待できません。
理由は簡単で、団信の目的は返済不能になってしまった際のローンの完済だからです。金融機関にとってはそれ以上の保障を求めるものではないため、そもそも生命保険と団信は目的が違うことを念頭に置いておきましょう。
- 健康状態によっては加入できないことがある
団信は生命保険の一種であり、保険を引き受けるのも一般の生命保険を販売しているのと同じ生命保険会社です。
生命保険では持病や既往歴があると保険に加入できなかったり条件が厳しくなったりするといったことがありますが、それは団信でも同じです。団信に加入する際には健康状態に対する告知が必要で、その内容によっては加入できないことがあります。
5.団体信用生命保険で確認される健康状態
団信では申込時に本人の健康状態を確認します。もし亡くなるリスクが高い健康状態だと判断されると、加入できない場合があります。
確認項目は、3ヵ月以内に医師の治療投薬を受けたことがあるか、過去3年以内に以下の病気で手術を受けたり2週間以上の治療投薬を受けたりしたことがあるか、などです。
心臓・血圧 | 狭心症・心筋こうそく・心臓弁膜症・ 先天性心臓病・心筋症・高血圧症・不整脈 |
---|---|
脳・精神・神経 | 脳卒中(脳出血・脳こうそく・くも膜下出血)・脳動脈硬化症・精神病・神経症・てんかん・自律神経失調症・アルコール依存症・うつ病・知的障害・認知症 |
肺・気管支 | ぜんそく・慢性気管支炎・肺結核・肺気腫・気管支拡張症 |
胃・腸 | 胃かいよう・十二指腸かいよう・かいよう性大腸炎・クローン病 |
肝臓・膵臓 | 肝炎(肝炎ウイルス感染を含む)・肝硬変・肝機能障害・すい炎 |
腎臓 | 腎炎・ネフローゼ・腎不全 |
目 | 緑内障・網膜の病気・角膜の病気 |
新生物 | がん・肉腫・白血病・しゅよう・ポリープ |
その他 | 糖尿病・リウマチ・こうげん病・貧血症・紫斑病 |
他にも次のような状態がないか、質問を設けている団信もあります。
- 矯正しても左右いずれかの視力が0.2以下
- 聴力、言語、そしゃく機能の障害
- 手、足、指の欠損や機能の障害
- 背骨(脊柱)の変形や障害
いずれも該当すると必ず団信を利用できないわけではなく、回答をもとに詳しく健康状態を確認してから判断します。
ただ意図的に症状を隠せば告知義務違反となり、死亡した際に保険金が支払われずローンが完済されない可能性があります。残された家族を守るためにも正直に回答しましょう。
6.団信に加入するなら特約も検討しよう
団信は死亡や高度障害の他に、さまざまな疾病をカバーする特約を付けることができます。現実には亡くなるだけでなく、病気で仕事ができなくなり支払いに困ることも十分考えられます。特約はそうした事態になったときに、ローンの残りを返済したり半分に減額してくれたりします。
ここでは団信の代表的な特約を紹介します。
6-1.「3大疾病」
日本人の死亡3大原因は、「がん・心疾患(心筋こうそく、狭心症)・脳血管疾患(脳卒中)」の3つです。これらは3大疾病と呼ばれ、生命保険でも多くの商品でこの3大疾病と診断された時点で保険金の一部もしくは全部が支払われるといった保障が付加されています。
通常の団信では3大疾病に対する保障はありませんが、利用者のニーズが高まってきたことを受けて3大疾病を保障する特約が設けられています。団信に3大疾病の特約を付けると、先ほど挙げたがん、心疾患、脳卒中のいずれかであると診断された時点で保険金が支払われ、ローンが完済されます。
3大疾病は日本人の3大死亡原因となっているだけあって、多くの人に可能性がある疾患です。3大疾病の特約を付けることにより、団信をより安心なものにしてくれます。
6-2.「8大疾病」
先ほどは3大疾病についての特約について解説しましたが、それ以外にも恐ろしい病気はたくさんあります。日本人に関わりが深い病気としては、上記の3大疾病に加えて以下の病気に関するリスクに留意しておく必要があります。
- 糖尿病
- 高血圧症
- 慢性腎不全
- 肝硬変、
- 慢性膵炎
上記の3大疾病にこれらの5つを加えて、「8大疾病」の特約を団信に付けることもできます。
オプション的な位置づけなので希望した人にのみ付加される特約で、8大疾病の特約を付けると3大疾病に加えて「糖尿病・高血圧・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎」という、5つの重度慢性疾患も保障の対象になります。いずれも多くの日本人が悩まされる疾病であり、特に年齢の高い人ほど検討したい特約です。
6-3.「生活習慣病特約」
3大疾病や8大疾病に加えて、さらに生活習慣病によって返済が困難になる事態にも特約で備えることができます。生活習慣病として指定されているのは10の疾病で、その内容は以下のとおりです。
- 糖尿病
- 高血圧症
- 腎疾患
- 肝疾患
- 慢性膵炎
- 脳血管疾患
- 心疾患
- 大動脈瘤および解離
- 上皮内新生物
- 皮膚の悪性黒色腫以外の皮膚がん
上記のように糖尿病や高血圧性疾患、肝疾患、腎疾患など、およそ10種類にものぼる生活習慣病を対象とした特約です。普段の生活があまり健康的ではないという人におすすめの特約です。
6-4.「ワイド団信」
これは特約ではありませんが、高血圧症や糖尿病、肝機能障害といった健康上の理由から、通常の団信に加入するのが難しい方向けの団信です。健康状態の条件が緩和されるため、該当する場合はぜひ一度相談してみましょう。
これらの特約の中には、指定日数以上継続して治療が行われたり入院したりすることが条件のものもあります。また保険料が無料の特約もあれば、返済金利が多少上乗せになる特約もあります。実際に特約を選ぶときは、条件や内容を十分に確かめたうえで加入するようにしましょう。
7.団信で注意しておきたい2つのポイント
団信を利用するうえで気をつけておきたいポイントを2つ紹介します。せっかくの団信も、条件によっては十分に活かせないことがあります。大切な家族を守るためにもぜひ注意していただき、万一に備えるようにしてください。
7-1.団信で保障されない事態に備える
団信は家族にとって安心できる仕組みですが、適用にならない疾病やケガなどで仕事ができなくなる事態があるかもしれません。そのため団信とは別に、すでに加入している生命保険の見直しも検討しましょう。
例えば入院保障や就業保障、収入保障などを手厚くしておけば、団信ではカバーされない病気になった場合も家族の負担を軽くできます。団信に申し込むのを機会に、保険会社へ見直しを相談してみることをおすすめします。
7-2.特約には年齢制限がある
団信は加入年齢条件が65歳や70歳と、比較的高い年齢になっています。しかし注意したいのが、がんや3大疾病といった特約で、51歳未満など加入条件よりは低めの年齢になっています。これはこの辺りの年齢から特約の疾病になる可能性があるためで、保険会社がリスク回避のために設けているものです。
言い換えれば、若いうちでないと手厚い特約を付けた団信にすることは難しいのです。申込で確認される健康状態も同様ですが、団信は健康なうちに加入した方が活かせる保険です。家族をより手厚く守るためにも、できるだけ早く加入を検討しましょう。
7-3.団信の契約内容は後から変更できない
団信はローンの借り入れとセットになった仕組みなので、契約後に団信の契約内容を変更することができません。団信への加入は新規にローンの借り入れをする時か、ローンの借り換えをするタイミングに限られます。
そのため、契約内容や特約の有無などについては、ローンの借入時に十分検討の上決めることを強くおすすめします。
8.投資も団信も早めの方がメリットあり
不動産投資でローンを組むときに加入する団信は、申込人に万一の事態が発生したときに大切な家族を経済的に守ってくれる保険です。さらに手厚い特約を付ければ、亡くなったときだけでなくさまざまな病気のときもしっかりとサポートしてくれます。
ただし健康を損なったり年齢を重ねたりすると、団信や特約の恩恵を受けることが難しくなります。健康で元気なうちに団信を活用し、家族に安心してもらえる不動産投資をスタートさせましょう。