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不動産の相続対策で知っておくべき3本柱と節税に関する最新事情

相続税は税率が高いというイメージが強く、特に不動産の相続を予定している方にとって相続対策は大きな関心事ではないかと思います。しかも相続税やその周辺にある税の制度については変更されることが多いため、常に情報をアップデートしておく必要があります。

本記事では2023年時点の最新情報をもとに、不動産を相続する場合に関係する税金や気になる相続税の算出、評価方法をはじめ、相続対策の基本について解説します。不動産と相続税についてはモヤモヤする部分がとても多いと思いますので、これから解説する知識でそのモヤモヤを解消してください。

不動産の相続対策で知っておくべき3本柱と節税に関する最新事情

1.不動産を相続する際に発生する税金は2つ

不動産を相続する場合、関係する税金は2つあります。1つめは皆さんが気になっている相続税、もう1つは登録免許税です。それぞれ概要を解説します。

1-1.相続税

相続財産の規模が一定以上になると、相続税が発生します。相続税は税率が高いというイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょうか。以下は相続税の税率一覧です。

相続財産の評価額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

出典:国税庁「相続税の税率」

相続財産が6億円を超えると最高税率が55%となり、半分以上が税金になることを考えると、やはり相続財産の規模によっては相続税が高いというイメージが依然として根強いのも無理はありません。

右には控除額の欄があってそれぞれ金額が設定されていますが、これは算出された相続税額から差し引くことができる分です。

1-2.登録免許税

登録免許税とは、不動産を登記する時に発生する税金です。相続では被相続人から相続人へと不動産の名義が変更されるため、その登記を行う際に登録免許税が発生します。

登録免許税の税率は、不動産の評価額に対して0.4%です。これは相続による所有権の移転登記に適用される税率で、売買など他の理由による所有権の移転では異なる税率が適用されます。

2.不動産の相続税はどれくらい?

不動産を相続すると、実際のところ相続税額はどの程度になるのでしょうか。ここでは相続税額を知るために必要な計算方法や評価方法について解説します。現金を相続する場合と違って「評価額」がいくらになるのかが相続税額に直結するので、その部分を特にしっかりとマスターしていただければと思います。

2-1.遺産総額を出した上で計算するのが基本

相続税額を計算する際には、まず遺産の総額を把握する必要があります。この場合の遺産総額とは不動産だけではなく、他にも現金や預貯金、有価証券などがあればそれらもすべて合算した総額のことです。

相続税には基礎控除があります。基礎控除は「3,000万円+相続人1人あたり600万円」なので、仮に夫が亡くなって妻と子2人が相続人になるのであれば、以下の計算式で基礎控除額を求めます。

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

被相続人の遺産総額が4,800万円を超えないのであれば基礎控除を差し引くとゼロもしくはマイナスになるため、相続税の納税義務はありません。

遺産の総額がこの基礎控除額を超える場合は、超えた分が相続税の課税対象になります。現金や預貯金は額面通りの金額で評価しますが、不動産は評価方法が異なります。土地と建物はそれぞれ評価方法が異なるので、次項から解説していきます。

2-2.土地の評価方法

土地を相続する場合、その価値を評価する方法は2つあります。1つは路線価方式、もう1つは倍率方式です。

・路線価方式
路線価というのは文字通り道路に面している土地の1平方メートルあたりの評価額なので、路線価に相続する土地の面積を掛けると土地の評価額を知ることができます。
この路線価は国税庁が発表しているので、以下のサイトで簡単に知ることができます。

国税庁「路線価図・評価倍率表」

このサイトで相続する土地の路線価を調べ、路線価が設定されている場合は路線価に対象となる土地の面積を掛けて評価額を計算してください。

・倍率方式
上記の路線価方式は、相続する土地に路線価が設定されている場合に用いられる方法です。路線価図に「倍率地域」と記載されている場合は、倍率方式を用いることで評価額を知ることができます。

倍率方式で土地の価値を評価するには、固定資産税評価額に倍率を掛けます。倍率については上記の国税庁のサイトで、固定資産税評価額については自治体から届く固定資産税の納税通知書で知ることができます。郵送された納税通知書がない場合は、管轄の役所で固定資産課税台帳を閲覧することで調べられます。

2-3.建物の評価方法

次に、建物を相続する場合の評価方法です。建物の評価額を計算する方法はシンプルで、固定資産税評価額に1.0を掛けて求めます。つまり、建物の評価額は固定資産税評価額と同じということです。

3.相続対策の3本柱「分割」「納税」「節税」

ここまでは相続税の税率や不動産の価値を評価する方法について解説してきました。ここからは基本的な知識に加えて、相続を「攻略」するための解説に進みたいと思います。

相続対策で重要になるのは、「分割」「納税」「節税」の3つです。この3つのポイントをしっかりと押さえておくことで相続における不利益を回避することができるので、1つずつしっかりと解説していきます。

相続対策の3本柱「分割」「納税」「節税」

3-1.「分割」

「分割」とは、相続する資産を遺族が分けやすいようにしておくことです。そもそも不動産は分割が難しい財産なので、遺産相続では分割をめぐって相続人同士の争いに発展しがちです。相続人が納得できる分割をすることは、無用なトラブルを回避するためにもきわめて重要です。

例えば相続対象となる資産が以下のケースで考えてみましょう。

賃貸マンション1棟:評価額8,000万円
自宅:評価額1,000万円
現金:1,000万円
遺産総額:1億円

法定相続人が配偶者と子ども2人の場合の法定相続割合は、配偶者が2分の1、子ども2人はそれぞれに4分の1です。配偶者は遺産総額1億円の2分の1となる5,000万円、子ども2人は1億円の4分の1となり2,500万円ずつを相続することになります。このとき評価額8,000万円の賃貸マンション1棟は、各相続人の法定相続分の金額を大きく上回るため分割することが難しい資産です。

例えば評価額1,000万円の自宅と1,000万円の現金を配偶者が相続し、8,000万円の賃貸マンション1棟の持分を配偶者に3,000万円分、2人の子どもに2,500万円分ずつに分割することもできます。しかし戸数がきれいに割り切れない場合もあるでしょう。

また所有者が複数になるため、物件管理が煩雑になり将来の大規模修繕に対する支出の意思決定などを考えると誰か一人が代表して相続するのが賢明です。

こういったケースでは、例えば生命保険を利用して相続時に資金を受け取れるようにすることも視野に入れておきましょう。不動産は配偶者が相続し、2人の子どもには現金で相続分を支払う「代償分割」のような方法を取ることもできるのです。

また8,000万円の賃貸マンション1棟ではなく1,000万円の区分所有マンションに資産を組み替えるなど、相続発生時に平等に分けられるようしておくことなども検討できるでしょう。このように遺産の中に不動産の割合が多い場合は、相続時の分割のしやすさを意識して対策しておくことが必要です。

3-2.「納税」

相続では、相続の対象となる資産を把握して各種控除などを行った後、法定相続分の金額に対する相続税が課税されます。相続税は現金納付が原則のため、前述の分割にいたる前に相続税分を納付できるように相続対象資産の一部を現金化しておくことが望ましいでしょう。

現金が用意できない場合は、相続対象の不動産を急いで売却し現金化するなど慌ただしい対応が必要となるケースもあります。急いで不動産を売却希望するような場合は、不動産仲介業者に足元を見られて安く買いたたかれてしまう可能性もあるので注意が必要です。

相続税の納税期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。この期限を過ぎると加算税や延滞税といったペナルティを課されてしまうので、その分だけ相続人の相続分が減ります。これも無用な出費なので、相続税の申告期限にも注意が必要です。

3-3.「節税」

節税とはその名の通り、「どれだけ相続税を少なくできるか」という考え方です。相続税は高いとお感じの方にとって、相続税をいかに少なくできるかは大きな関心事でしょう。相続税やその周辺には節税に役立つ制度もあるので、これらの制度をしっかりと理解し、活用するべきです。

贈与税には年間110万円までの基礎控除枠があるため、これを利用して被相続人の生前に少しずつ資産を相続人に移していくというスキーム(暦年贈与)があります。しかし、この暦年贈与については相続時点から3年前までさかのぼって贈与分が相続財産に算入されるため、今では節税効果が弱くなっています。

さらに、この110万円の基礎控除枠についても110万円から半分程度に縮小されるとの制度改正が見込まれているため、これが現実になると暦年贈与による節税スキームは今後あまり有効ではなくなるかもしれません。

その他、婚姻20年以上の配偶者に居住用資産を贈与する場合には2,000万円まで非課税となる制度を活用したり、子どもが住宅を購入するときの資金贈与の特例を活用したりするなどの方法も検討するといいでしょう。

相続する不動産が賃貸に供されている場合は、土地、建物それぞれの評価額を減ずることもできます。被相続人が不動産投資をしている場合も該当するので、相続対策として不動産投資を始める人も少なくありません。

さまざまな制度や特例を使って事前に対策を講じることで、相続税の節税につながります。「相続税は高い」と嘆いてばかりいても節税はできないので、こうした制度をしっかりと理解して該当する制度は積極的に活用しましょう。

4.節税になるけど注意点も多いのが不動産

「相続税の節税」という点でいうと不動産は優秀な資産です。例えば現金4,000万円を相続する場合は、額面通り4,000万円が相続の評価額となります。しかし現金で4,000万円の不動産を購入した場合は、土地、建物それぞれの評価が現金よりも低くなるため相続時の資産価値が7~8割程度になる可能性が高いでしょう。相続財産としての評価額を低くすることは、相続税を節税する基本です。

ただし、相続対策として不動産を保有する場合には注意点もあります。

4-1.分割しやすくしておく

前述したように分割しやすくしておくことは重要です。節税することができても遺産相続の際に相続人が手続きに追われてしまったり、険悪になったりしてしまっては元も子もありません。

4-2.市場価値を注視する

市場価値の変動にも注視しましょう。一般的に不動産を保有してから相続が発生するまでには、数年、数十年といった期間があるため、年数経過に伴い街が開発されて資産価値が上がる不動産もあれば近隣商業施設の撤退などで資産価値が下がる不動産もあります。

「節税のために」と不動産を保有して節税分以上に資産価値が下がってしまっては本末転倒です。これらの点に十分留意したうえで相続対策としての不動産の購入を検討しましょう。

5.価値の低い不動産から価値の高い不動産へ

例えば、最寄り駅まで徒歩約15分のワンルームマンションを所有しているとしましょう。「街がこれから発展する」ことによって「駅近のワンルームがさらに増える」といったことが起こると、所有するマンションの競合が増えてしまって空室率が上昇し、それに伴って資産価値が下落する可能性があります。

そのため以下のようなリスクがあることも事前に把握しておくことが重要です。

  • 気がついたら売れない
  • 人気がないから賃借人が決まらない
  • 家賃収入はないのに管理費や固定資産税だけが発生する

このような不動産を相続したとしても、相続人にとっては有難迷惑で頭を抱える問題になりかねません。例えば相続が発生する前に追加で資金が少しかかったとしても「駅近のマンションに買い換える」などの対策をしておけば、相続人を困らせる可能性は低くなるでしょう。先を見据えて、不動産を活用した相続対策をとることが重要です。

6.相続評価は低く、収益は高く取れる不動産がある

不動産を相続する場合の基本的な知識と、相続をスムーズに進めるための3本柱について解説しました。これらはすべて基本的な仕組みや考え方に関する解説なので、個別の相続については税理士など専門家のアドバイスを受けるのが無難です。

相続評価は低く、収益は高く取れる不動産がある

なお、ここまでの解説で相続財産としての評価が低い一方で実際の収益は高く取れる不動産があれば理想的だと思った方もおられると思います。その理想に近いのが、中古のリノベーション物件です。

元は中古マンション物件なので相続財産としての評価は低いですが、リノベーション工事によって付加価値を高めれば賃貸物件としての集客力が高まり、空室に悩まされることのない高い収益力をもった不動産にすることができます。

相続対策をお考えの方は、中古のリノベーション物件も視野に入れて、計画を立ててみてはいかがでしょうか。

3年以上勤めた会社員へ。
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