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民法改正によって、原状回復や保証人制度に関する考え方が大きく変わる

2020年4月1日に明治以来120年ぶりとなる民法の大改正が行われました。今回の改正は契約に関するルールを定めた債権規定を抜本的に改めるもので、改正項目は約200にも及びます。この中に、賃貸オーナーにも関わる変更点がいくつかあります。今回は、原状回復義務の範囲が明確化されたことに着目してみましょう。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」おさらい

原状回復義務とは

原状回復義務とは、住居の賃貸借契約において、契約終了、または途中解約し退去する際に、借り主・入居者が部屋に設置したものを取り除いてから部屋を返すべき義務のことをいいます。
これは、契約前の状態に戻して返すということではありません。なぜなら、部屋に人が住んで通常に使用していれば、時とともに劣化・消耗するのは当然のことであり、その消耗によって価値が減少した分は部屋を貸した側が負担すべきだと考えられているからです。一方で、故意にせよ、過失にせよ、借主の責任で部屋に生じた損耗の修復は、借りた側が負担すべきとされています。
ただ、そうはいってもどこまでが自然に生じた損耗なのか、どこからが借主の責任になるのかの明確な線引きは難しく、トラブルの種になりやすい状況がありました。それを受けて、1998年3月に国土交通省(当時の建設省)がとりまとめて公表したのが、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
このガイドラインでは、原状回復の定義が明確にされ、「通常の使用」をより具体的な事例を用いて説明しています。トラブルを予防する具体策や、解決に向けて参考にできる指針が示された形です。

貸主側、借主側が費用を負担する部分の具体例

この国が定めたガイドラインに沿って具体的な事例から、どちらが原状回復費用を負担するのかを解説します。

●貸主側の責任になる主な事例

一般的に貸主側の負担になるのは、故意や過失ではなく経年劣化や摩耗など、正当に使用していただけでも発生してしまう劣化や汚損などです。主に以下のようなケースが貸主負担となります。

  • 破損や紛失がない鍵の取り換え
  • 経年劣化による設備、内装、家電製品を稼働させることによって起きる汚損など
  • クロス、ふすまなどの自然変色
  • 次の入居者確保のための内装刷新
  • 地震や台風など自然災害による破損

●借主側の責任になる主な事例

経年劣化や不可抗力による場合は原則として貸主負担となりますが、その一方で借主の故意や過失によって生じた破損や汚損などについては、借主の負担となります。主に以下のような場合です。

  • 借主が鍵を紛失したことによる鍵の取り換え
  • 適切なメンテナンスを行わなかったことによる設備の故障
  • 設備などを適切に使用しなかったことによる汚損など
  • 借主の故意や過失による内装の汚損
  • 物をかけるための釘穴、ネジ穴
  • ペットによる傷や臭い
  • 引っ越し作業時の傷や汚損
  • 不注意によって雨水が入り込んだり、水をこぼした場合の汚損、劣化

120年ぶりの民法大改正、どう変わった?

今回の民法改正では、その「原状回復義務」と「敷金」について、法律に明記されることになりました。

敷金が初めて定義された

これまで敷金は、商習慣としてあっただけで、その定義や敷金の返還義務などに関しては法律上で規定されていませんでした。改正後の民法では、敷金の定義がこのように記されます。
「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」(改正民法 第622条の2)
敷金とは、借主の賃料の滞納などがあった場合に、その弁済に充てるものであるということです。そして、弁済に充てた後に残った敷金は、借主に返還しなければならないということになります。また、「いかなる名目によるかを問わず」とありますので、「敷金」ではなく「保証金」などのような呼び方をしても、上記のような性質の金銭は同等に扱わなければなりません。

原状回復のルールも明確になった

また、民法改正では「原状回復義務」の範囲について、下記のように、通常の使用によって生じた物件の損耗、経年劣化は借主が回復する義務を負わないことが改めて明示されました。
「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」(改正民法 第621条)

連帯保証人の保証限度額を定めることや情報提供などが義務に

民法改正により、根保証契約の制度が大幅に改められました。極度額(保証の上限額)が定められていない根保証契約は無効となり、改正前と比べて連帯保証人が負う責任の範囲が縮小、明確化されます。また、これと同時に保証契約をする際には公証人による保証意思確認手続が必要となります。

こうした改正には、本人の意思や認識とは異なり意図せず負債を抱えることになってしまうといった事態を回避する狙いがあります。身近な人から連帯保証人となることを頼まれ、名前を貸すだけのつもりで十分な理解のないまま保証人になってしまうといったかたちで、根保証契約によって多額の債務を負うことを防止します。

また、これに加えて個人が保証人になっている根保証契約においては、保証人が破産もしくは死亡した場合、また主債務者が亡くなった場合には以後の債務について保証の対象外になることも定められました。

建物の修繕などは条件を詳細に取り決めることが求められる

賃貸住宅において入居している建物や設備に修繕が必要になった場合、これまでは民法に明確な規定がなく、双方の話し合いや契約の内容によって責任の所在が決まるため、あいまいさを残した仕組みになっていました。民法改正では建物や設備の修繕において責任の所在が明確化され、賃貸契約時には条件を詳細に取り決め、それを明文化されることが求められます。

この改正ポイントは、多くのメリットがあります。従来の仕組みでは貸主側の責任範囲にあたる修繕は貸主の了解がなければ借主が自らの判断で修繕をすることはできませんでした。しかし、改正後は借主の権利も明確化されているため、借主の生活に支障がある場合は借主の判断で修繕を手配し、あとから貸主に修繕に要した費用を請求するといった動きも可能になります。

瑕疵担保責任

不動産の売買契約時には明らかになっていなかった不具合や問題などがあとから発覚した場合、売主が修繕や問題解消の責任を負います。この責任のことを、瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)といいます。民法改正では、この瑕疵担保責任についても変更取り扱いが一部変更されています。

まず、瑕疵という言葉がそもそも使われなくなり、「契約不適合責任」という表現に改められています。瑕疵には落ち度や欠点といった意味がありますが、改正後の民法では「契約の内容に適合しないもの」と定義しており、これを意味する言葉として契約不適合責任という言葉が用いられています。

売買契約を締結し、物件が引き渡されたあとになって品質や仕様に契約不適合、つまり「話が違う」と見なされる問題が発覚した場合に、売主は契約不適合責任を負います。売主が契約不適合責任を負う場合、買主は以下の権利を主張することができます。

①追完請求(修繕や代替品の請求)
②代金減額請求(追完請求をしたにもかかわらず売主が応じない場合に限定)
③損害賠償請求(損害が発生した場合に請求)
④契約解除(売主が追完請求に応じない場合に可能となる)

改正前の民法では③と④のみを認めていましたが、改正民法の契約不適合責任では①と②も明文化されているため、より買主の権利が保護されています。

これまではガイドラインや商慣習に依存する部分が大きかったものが、今後は法的根拠をもったルールとして明確に定められたことになります。

改正に対して賃貸オーナーが備えておくべきこと

これまでも、ガイドラインに沿わない賃貸借契約が個別に結ばれるケースはありました。例えば、「物件の損耗が通常の使用によるかどうかにかかわらず、借主は退去時に修繕費を負担する」といったような特約です。
今後も、契約にそのような特約を盛り込むこと自体は認められます。しかし、そのような契約を結んだとしても、消費者契約法の10条に照らして「消費者の利益を一方的に害するもの」として無効にされる可能性があるということは、賃貸オーナーとして認識しておく必要があるでしょう。
また、関西や九州の一部には「敷引き」という習慣があります。敷引きとは、契約時に保証金から差し引かれるお金のことで、退去時の修繕費が敷引きの額よりも小さくても、残りは返金されません。しかし、改正民法が施行された後は、借主の責任による損耗にかかる修繕費以外は返還しなければなりません。敷引きとして得ていた分を礼金として受けるようにするなどして、体制を整える必要があります。
貸主は、物件の経年劣化や通常の使用による損耗の修繕費を支払う必要があるため、投資家としてはその費用を考慮した収支管理をすることが求められるでしょう。

どのくらい費用を見込めば良いか?

とはいえ、将来的に実際どの程度費用を見込んでおけば良いか、なかなか判断が難しいかもしれません。また、所有物件の現在価値や今後の出口戦略も気になるところでしょう。そんな時は、オーナー様向けの無料相談サービスも活用いただくのがおすすめです。他社様の購入された物件をご所有中の方もお気軽にお問い合わせください。

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