不動産投資

不動産投資の法人化は本当に正しいのか?

2020年現在、個人の所得にかかる所得税・住民税の最高税率は所得税45%、住民税10%で最大55%となっています。また、法人税の実効税率は約29.74%(2020年1月時点)のため「収益の大きい不動産投資家は個人ではなく法人で不動産投資をすべきだ」という意見をしばしば聞きます。しかし、すべての不動産投資家にとって法人化がベストな選択になるとは限りません。

今回は、法人化に伴う諸費用や手間にも注意しながら、不動産投資において法人化するべきかどうかの判断基準や法人化することが本当に正しいのかどうかについて考えてみます。

不動産投資の法人化は本当に正しいのか?

所得税と住民税の仕組み

不動産投資の主体が個人か法人かを議論する前に、まず所得税や住民税の仕組みを確認しましょう。ただし税制にはさまざまな控除や非課税措置があり、その内容はケースバイケースです。そのため、ここではあくまでも概略として解説します。

個人の所得税は累進課税制度を採用しているため、所得が大きいほど高率の税率が適用されるのが特徴です。また住民税は、都道府県税と市区町村税、所得割と均等割という4区分で課税されます。所得割の税率は均一で10%、均等割は基本的に5,000円です。ただし自治体によって異なる場合もあります。

個人や法人の所得に実質的に課税される税率のことを実効税率といい、冒頭で述べたように日本の実効税率は2020年1月時点で約29.74%となっています。

法人化が有利となる境目

個人の場合、所得が4,000万円超になると所得税45%と住民税10%の合計で55%の税率が課されることになります。一方で法人の場合、所得800万円以下で小規模な法人以外であれば実効税率は29.74%です。

さまざまな控除や非課税措置があるため、個人の状況に合わせて計算しなければ正確な数値は出せませんが、一般的に所得金額が695万円を超えると実効税率的には法人化したほうが有利だと言われています。

法人化が有利となる境目

法人化に伴う諸費用に注意

大切なことは「単純に実効税率だけで法人化を検討すべきではない」ということです。法人化は、法律に基づき世の中に「法人」という人格を新たに作り出します。所定の手続きがあるだけでなく費用や手間が発生することも忘れてはいけません。

例えば印紙代や公証人手数料、登録免許税、そのほか法人化に伴って発生する費用などを合計すると、合同会社の場合は約10万円、株式会社の場合は約21万円~25万円が必要になります。なお定款に貼り付ける印紙代は通常4万円かかりますが、電子定款を用いる場合は不要です。

法人化の判断には

法人化費用は、法人設立時に一度だけ発生する費用です。法人化すると毎年発生する費用に法人住民税がありますが、法人住民税は法人税割と均等割の両面から課税され、法人税割は法人所得に関連して課税されます。所得がなければ法人税割は課税されません。ただ、そもそも不動産投資は収益を上げることが目的のため課税されないことを前提に考えるのは現実的ではないでしょう。なお、均等割は所得がなくても資本金や従業員数に応じて課税されます。

例えば東京都の場合、法人を設立すれば毎年最低限7万円は納税することになります。法人化の判断は、税制面だけでなく法人スキームに応じて発生するコストも判断材料になります。スキームの基本は、以下の3種類に大別できます。

  1. 法人で物件所有:家賃収入を法人に帰属させ収入を分散させるスキーム
  2. 法人で管理:家賃収入から管理委託費を法人収入にするスキーム
  3. サブリース:法人が一括借上をしてオーナーに家賃を支払うスキーム

節税効果が最も大きいのは家賃収入を法人に帰属させて収入を分散させる1ですが、個人で不動産投資をはじめて途中から転換するには、所有権の移転手続きや事務手数料などかなりの手間や費用がかかるでしょう。そのためのコストは十分に考慮しなければなりません。

今回は「不動産投資を法人化することがいいのかどうか」ということについて考えてみました。所得の金額によっては法人化することで大きな節税につながりますが、法人化にはさまざまなコストと手間が発生します。安易に飛びつくとかえって高くついてしまうこともあるため、法人を設立する前にじっくりとシミュレーションしてから決断するようにしましょう。

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