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いったいどっち? 東京五輪後に不動産が暴落するの?しないの?

「東京五輪後に不動産は暴落するので今は買わないほうがいい」「だから早く手放したほうがいい」といった言説が、まことしやかに出版物やネット上で飛び交っているようです。不動産投資のうまみの一つは、家賃収入が景気の動向に左右されにくい点です。一方で物件価格は家賃よりも景気の影響を受けやすい傾向であるため、物件価格が割安な時期に購入できれば高利回りで運用することができるでしょう。

それだけに物件を買うタイミングは重要です。今回は、はたしてこの「五輪後暴落説」が正しいのか考えてみましょう。

いったいどっち? 東京五輪後に不動産が暴落するの?しないの?

2013年からの不動産価格上昇は五輪開催決定とは無関係

「東京五輪後に不動産は暴落するのか?」という言説を組み立てる論理は、簡単にいえば「五輪というイベントが終わったことが原因で不動産価格が下がってしまう」ということです。裏を返せば「五輪開催が決まったことが原因で不動産価格が上昇した」ということ。2020年の五輪開催地が東京に決定したのは2013年9月です。たしかにその頃から地価の上昇傾向は始まっています。

しかし五輪開催決定の発表だけを地価上昇のきっかけと分析する専門家はほぼいないでしょう。専門家の多くは、安倍政権の金融・財政政策「アベノミクス」を起因としています。バブル期を超える大幅な金融緩和策が実施され歴史的な超低金利となった結果、余剰資金が3大都市圏と地方中枢都市の一部に集中して流入し急激な地価上昇が起こったとみているのです。

その後、東京五輪に伴う建設需要やインフラ整備需要が増したことは事実でしょう。ただ不動産市場が値上がりしたのは、それだけが理由ではありません。インバウンド需要が強い観光地でのホテル建築、相続税対策としてのアパート建築、都内の渋谷や虎ノ門などで始まった街の再開発など不動産市場に影響を与えた要因は数え切れないほどたくさんあります。

2013年からの不動産価格上昇は五輪開催決定とは無関係

先進国では五輪開催後に不動産価格が暴落した例はない

それでは「東京五輪というイベントが終わったことが原因で不動産価格が下がってしまう」という論理は成り立つのでしょうか。これは、過去に五輪を開催してきた海外の先進国の事例を見れば答えが出るでしょう。「先進国」と条件をつけた理由は、先の東京五輪が開催された1964年当時の日本や2008年に北京五輪が開催された中国のような発展途上にある「新興国」と国の成熟度が異なるからです。

新興国にとっては五輪開催という「特需」が、その国の経済に与える影響が大きいことは、いうまでもありません。ただ以下の五輪ではいずれの国でも五輪終了後に住宅価格が下がったとするデータはありません。

  • 1996年:アトランタ五輪(アメリカ)
  • 2000年:シドニー五輪(オーストラリア)
  • 2004年:アテネ五輪(ギリシャ)
  • 2012年:ロンドン五輪(イギリス)

これらを踏まえると社会インフラがすでに整った先進国において五輪特需が不動産市場に与える影響は、極めて限定的という見方ができるのではないでしょうか。

リーマン・ショック級の経済危機が起きるのか?

東京五輪の終了を契機に不動産市場が暴落するかどうかについて、「その可能性は低く影響があったとしても限定的ではないか」ということを説明してきました。ただ誰もが予想し得ない理由で世界経済が停滞し暴落につながることはあります。2008年9月、アメリカの大手投資銀行「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻を発端に世界規模の金融危機が連鎖的に発生し日本経済も大きな影響を受けました。

2020年3月時点で中国発の新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっています。2月の最終週に入り日経平均株価は5日連続で大幅に下落、1週間でリーマン・ショック直後の下げ幅に迫る2,243円78銭(▲9.6%)を記録。新型コロナウイルスの感染はアジアのみならず世界中に広がりつつあり収束の見通しが立っていないことから世界的な株安の連鎖が始まっています。

そして日本では外出を控える人が増えたことで消費が冷え込んでおり、消費増税に伴う消費の冷え込みに拍車をかける結果となっています。新型コロナウイルスが原因で東京五輪の開催さえ不安視する声が聞かれるような状態です。五輪後の不動産暴落を心配するよりも「コロナ不況」が現実味を帯びてきた状態といえるかもしれません。今後の不動産投資の動向については、現状ではむしろ経済状況や景気動向に注意を払っていくことのほうが大切ではないでしょうか。

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