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民法改正で敷金返還義務のルールが明文化

入居者がオーナーに支払う「敷金」は、家賃の1~3ヵ月程度が一般的です。家賃滞納や退去時の原状回復工事、修繕が必要なときの「保証金」として最初に預けることが慣例でしたが、2020年4月に施行される改正民法の条文で敷金返還義務や原状回復についてのルールが明文化されました。法律として明確に整備されたため、オーナーは改正前よりも敷金返還義務についてルールを再確認しておくことが必要です。

民法改正で敷金返還義務のルールが明文化

原状回復の解釈から紛争に発展

賃貸住宅で生活したことのある人なら、原状回復という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。従来の原状回復とは入居したときの状態に戻すことです。長期間部屋を借りて生活をしていれば、どんなに注意をしていても床や設備が経年劣化し、いろいろなところに傷がついてしまいます。入居者が引っ越すなどで退去する場合、退去後に原状回復のための工事が必要です。

原状回復するための修繕費は入居時に預けた敷金から差し引かれて「余れば返金」「不足なら請求」というのが一連の流れでした。しかし「敷金がどのくらい差し引かれるのか」「原状回復の金額が適正なのか」など気になった人もいるのではないでしょうか。

一般的に修繕は管理会社を通じて行われ費用の負担分担は、オーナー側の判断に委ねられていました。この情報の「非対称性」を利用して本来はオーナー側が負担するべき原状回復費用まで入居者に負担させていた悪質なオーナーもいたのです。国民生活センターには、退去時のトラブルとして以下のような相談が寄せられています。

  • オーナーからの原状回復費用請求が高額で、反論したけれど、取り合ってもらえない
  • ペット特約を根拠に原状回復費用を過剰に請求された
  • 管理会社からクリーニング代や修繕費を請求された。高額で納得できない
  • 賃貸アパートの退去時に敷金を半額返金すると聞いていたが、清掃費が追加され、返金されない通知書が届いたなど

すべてが入居者の言い分通りとは思えませんが、原状回復費用と敷金返金額に不満を持っている入居者が、決して少なくなかったことは事実でしょう。

原状回復の解釈から紛争に発展

これまでは東京ルールや国交省ガイドラインで対応

こうしたトラブルに対処するため、国土交通省は1998年に原状回復費用に関するガイドラインを定め、その後も2回にわたって改訂しています。また東京都では2004年にいわゆる「東京ルール」と呼ばれる東京都の「賃貸住宅紛争防止条例」が施行されました。ガイドラインや東京ルールは「原状回復とは入居者が借りた当時の状態で戻すことではない」ということを明確にしており「経年劣化や通常の使用による損耗の修繕費用は家賃に含まれる」としています。

このルールに従えば、「直射日光によって壁紙が退色した」「冷蔵庫の後ろの壁が電気焼けした」「家具の重みで床がへこんだ」など、経年劣化や通常使用による摩耗といったケースで入居者が修繕費用を負担する必要はないことになるでしょう。紛失や破損がなければ、次の入居者のために鍵を新調したりユニットバスやトイレを取り替えたりすることもオーナー負担です。

他方で「入居者が喫煙者で畳を焼いてしまった」とった場合は、当然入居者負担になります。またタバコのヤニでクロスが変色したり部屋中にタバコの臭いがついてしまったりした場合も入居者の負担です。清掃を怠ったことでカビが発生したりシミが残ったりしたときも同様でしょう。

またオーナーと入居者間の合意が必要という一定条件はありますが、特約で入居者負担を増やすこともできます。

民法改正で敷金と原状回復のルールが明文化

上述したガイドラインは過去の判例をもとに作られており、オーナーや管理会社は実質的に拘束されているとはいうものの、厳密にいえば強制力があるものではありませんでした。また東京ルールが適用されるのは東京都内だけであったため、依然としてトラブルが残っていたことから今回の民法改正で以下の通りの条文(改正民法第621条)が制定されることになりました。

“第621条(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない”
出典:法務局 民法の一部を改正する法律案新旧対照条文

これまでガイドラインや東京ルールで運用してきたことを、そのまま条文に落としこんでいるようです。今回正式に法律で整備されたことで、敷金返還義務や原状回復に関するトラブルの多くはきっと解消していくのではないでしょうか。

インターネットの普及で入居者の権利を守る方法を示した情報に誰もがアクセスできるようになってきています。納得できない修繕費や清掃費が敷金から引かれていた場合、敷金返還請求権に基づき敷金の返還を求める内容証明郵便を行ったり、少額訴訟を起こしたりする方法が掲載されたサイトも珍しくありません。

入居者との間の不必要なトラブルを避けるためにも、オーナーは敷金返還義務と原状回復に関する改正内容について改正後の内容を正しく押さえておきましょう。

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