不動産投資

マンションの事務所利用を認めるかどうか?知っておきたいメリットとデメリット

近年会社や組織に属さずフリーランスとして仕事をする人が増えており、自宅を事務所として利用するケースが多くなりました。費用やその使い勝手などの理由からオフィスビルではなくマンションの一室などの賃貸物件を借りて事務所として使う小規模のベンチャー企業も増えています。

2020年に端を発したコロナ禍では出勤をせず自宅などでリモートワーク(テレワーク)をすることが推奨され、これまでは住むためのスペースだったマンションの室内がワークスペースになる契機となりました。それ以前から国は働き方改革の一環としてリモートワーク(国はテレワークと呼称)を推奨してきた経緯もあるため、「自宅で仕事」という価値観が今後定着し、拡大していくことが予想されます。

そこで本記事では、不動産投資家としての目線で物件の事務所利用について考えてみましょう。

マンションの事務所利用について考えてみよう

1.高まるSOHOや在宅フリーランスの需要

政府が主導する「働き方改革」の影響やIT技術の進歩にともない、クラウドソーシングのような仕事の受発注をネットで行う業者の躍進が顕著になっています。これに伴い企業や官公庁といった組織に雇用されて働くのではなく、フリーランスとして働くことを選ぶ人が増えてきました。

大手クラウドソーシングサイトのランサーズが行った「フリーランス実態調査 2018年版」によれば2018年時点のフリーランスの経済規模は、日本全体における給与支払額の10%の約20兆円でした。
また2015年に913万人だったフリーランスの人数は、2018年1,119万人となっており短期間で急激に増加しています。

さらに時を進めて、2020年の状況も見てみましょう。こちらは国土交通省が実施した「令和2年度 テレワーク人口実態調査」の調査結果です。

国土交通省「令和2年度 テレワーク人口実態調査」

出典:国土交通省「令和2年度 テレワーク人口実態調査」

フリーランスで働いている人たちは、自営型テレワーカーに分類されます。フリーランスを含む自営型テレワーカーの比率が微減しているのに対して、雇用型テレワーカーは急増しているのが見て取れます。もとより働き方改革でリモートワークが普及していたところにコロナ禍が発生したため、背中を押されるようにテレワーカーが急増した推移が如実に表れています。

フリーランスの増加はフリーランス向けの小規模オフィスの需要を引き起こしました。一時期“遊牧民”を意味する「ノマド」という言葉にならって所定のオフィスを持たずノートPCを持ってカフェなどで仕事をするスタイルがもてはやされましたが、最近では定まった仕事場は必要と考える人が増えてきているようです。

個人で貸事務所を借りることは金銭的に敷居が高いため、シェアオフィスか自宅で作業をするSOHO(Small-Office Home-Office)が主流となっています。これにより事務所やSOHOとしても利用できる賃貸物件のニーズが増えており、不動産投資家にとっては一つの新たなビジネスチャンスが到来しているといえるでしょう。

高まるSOHOや在宅フリーランスの需要

2.物件を事務所利用可能にするメリット

シェアオフィスは企業がサービスとして提供しているケースが多いようですが、フリーランス同士が集まって自分たちで事務所やマンションを借りて仲間内でシェアするモデルもあります。特にキッチンや洗面所、入浴設備などが充実している賃貸マンションをオフィスとして使用するスタイルが人気のようです。

こうしたニーズを受けて、所有している物件を事務所利用可能にすることで考えられるメリットは3つあります。それぞれ解説していきましょう。

2-1.空室対策になる

空室リスクは不動産投資の大敵です。空室期間はその物件からの家賃収入がゼロになってしまいます。家賃収入を当て込んでローンを組んでいる場合、空室になってもローンの返済が止まるわけではないため、「持ち出し」で返済をしなければなくなります。

事務所利用を可能にすることで、マンションオフィスを求めている人も入居者の対象になります。空室が発生するリスクを低減し、所有しているマンションの稼働率を高めるうえで、事務所利用に用途を拡大することは有効です。

2-2.部屋を汚されにくい

住居としてマンションを利用していると、入居者に悪意がなくても汚れやすくなります。シャワールームを使用すれば汚れるのは避けられませんし、キッチンなど水回りを使用すると汚れるだけでなく破損する可能性もあります。

しかし、マンションを事務所として使用する入居者であればシャワールームをそれほど頻繁に使用しないかもしれませんし、そこに住むわけではないので滞在時間が短くなり、結果として部屋を汚したり破損させてしまうリスクが少なくなります。

部屋を汚されにくいというのは、資産価値の維持に直結します。マンションは経年劣化といって時間の経過とともに価値が少しずつ下がっていくものですが、部屋の汚損が進むと資産価値低下のスピードが速まってしまいます。事務所利用であれば「生活」をしない分だけ部屋の状態が良好に保たれる可能性が高く、マンション物件のオーナーにとっては大きなメリットです。

2-3.賃料を上乗せできる可能性も

本来は居住用のスペースであるマンションを事務所に利用することは、目的外使用です。オーナーが認めている場合は契約違反になることはありませんが、本来の用途とは異なる使い方をするとマイナス面の影響もあるため、マンション物件のオーナーによっては事務所利用を禁じていることもあります。

近隣で事務所利用できるマンションが少ないのであれば事務所として利用したい人からの引き合いが入りやすく、オーナーにとって有利な条件で賃貸契約を結べる可能性が高くなります。家賃を上乗せすることは収益性の向上につながるのでオーナーとしては歓迎したいところですが、事務所利用を認めることでそれが可能になるかもしれません。

3.物件を事務所利用可能にする時の注意点

空室リスク対策や資産価値の保全など、マンション物件の事務所利用を認めるといくつかのメリットが得られるわけですが、その一方でデメリットや注意点もあります。今も事務所利用を認めていないマンション物件が多数あるのは、オーナー自身がデメリットを強く感じているからです。

また、区分所有者である不動産投資家が禁じていなくても、マンション全体で事務所利用自体を禁止している場合もあります。自分が一棟所有している物件であれば気にする必要はありませんが、区分所有の場合は事前に管理組合の規約をきちんと確認しましょう。

このように賃貸物件の事務所利用を検討する場合はメリットとデメリットの両面から慎重に考える必要があります。事務所利用の問い合わせがあった場合は、職種や業態、営業時間や具体的な作業内容を確認した上で対応するようにしましょう。投資物件はオーナーの大切な資産です。少しでも不安要素を残さぬように信頼できる不動産会社に相談しながら取り組むとよいでしょう。

それでは、事務所利用を認める際の注意点について、2つの項目で解説します。

3-1.申込者の業種を必ず確認する

事務所利用を認める場合重要になるのが、入居者の業種です。まず大きな分類として、BtoBとBtoCのどちらであるかをチェックしましょう。BtoBとは企業間取引で売上を立てている事業者のことです。つまり、事務所としてマンションを利用している入居者の顧客も企業や事業者です。

企業間取引の場合、それほど頻繁に同じ得意先の人が来客としてやってくることはないでしょうし、それほどマナーが悪い人が含まれていることもないと思われます。

しかし、BtoCだと様相は一変します。BtoCとは一般消費者向けに事業をしている事業者のことなので、事務所を開設しているマンションにやってくる来客は不特定多数の一般消費者です。いわゆる「素人」が相手なので、そのなかにはさまざまな人がいます。なかにはマナーの悪い人もいることは十分考えられるので、マンションを事務所として利用することによるトラブルの要因になります。

次に注目したいのは、「音」です。業種的に大きな音が出ることがあるようだと、近隣の迷惑になります。例えば印刷業では輪転機といって印刷に使用する機械を使用するため、大きな音が出ます。工場で稼働させる分にはそれほど気にならない音量ですが、静かなマンションのなかで輪転機の音が鳴るとかなり目立ってしまうでしょう。

そのほかにも「臭い」が出るような業種の入居者も敬遠したほうが無難です。臭いが発生することが苦情になるとトラブルを解決しにくくなるため、音や臭いなど一般的に公害に分類されるような影響を及ぼす業種は避けるようにしましょう。

3-2.不特定多数の人が出入りするリスク

入居者の業種や業態によっても異なりますが、事務所への来客も含めてマンションの住人ではない人たちが絶えず出入りすることが考えられます。

また、来客といっても業態がBtoBで取引先の人が来るだけなのであれば問題が出にくいと思いますが、業態がBtoBではなくBtoCの場合、先ほども述べたように不特定多数の人が頻繁に出入りする可能性もあるでしょう。これだと人の出入りや共用部の使い方について入居者や他のオーナーから苦情が出るかもしれません。

またオートロックのマンションでは不特定多数の人が出入りすることでセキュリティーに懸念を持つ人が出てきても不思議ではなく、セキュリティー面のクオリティが下がると思われる可能性もあるでしょう。

4.問題の起きにくい業種例

先ほど、事務所利用を認めるのであれば業種をしっかりと選別する必要があると述べました。特に「音」と「臭い」には注意が必要になるわけですが、それでは逆に問題が起きにくい業種にはどんなものがあるのでしょうか。ここでは3つの業種を挙げて、それぞれの特性についても述べたいと思います。

4-1.ライター

ライターとは、文章を書く職業です。作家やエッセイストなど文章を書く仕事全般を「ライター」と定義すると、これらのうちどの職業であってもライターは音や臭いを出すことがありません。また、来客で編集者やクライアントの担当者などが来訪するかもしれませんが、それほど多くはないでしょう。

手書きで文章を書く人はもちろんのこと、最近ではほとんどの人がパソコンを使って文章を書きますが、それでも静かな職業であることに変わりはありません。キーボードを叩く音がカチャカチャと鳴るかもしれませんが、それが近所迷惑になることはまずないでしょう。

入居を希望している人の職業がライターなど文章を書く仕事をしている人であれば、事務所利用を認めても問題は起きにくいといえます。

4-2.エンジニア・プログラマー

エンジニアやプログラマーも上記のライターと同様、パソコンを使うのがメインの仕事です。ライターと同様に1人で集中して作業をすることが多いので静かな環境を好む人が多いのも、エンジニアやプログラマーの特徴です。これは逆に考えると入居者自身も静かに過ごすことを望んでおり、音で近隣に迷惑をかける可能性は低いでしょう。

来客があるといってもBtoBの業種なので不特定多数の人が頻繁に出入りする可能性は低く、何も言わなければ近隣の人はその部屋を事務所にしていることすら気づかないかもしれません。

4-3.デザイナー

ライターと同様に、デザイナーは創作系の職業です。上記2つの職種と同じく1人で集中して作業をすることが多い特性があるので、静かな入居者である可能性が高いでしょう。

手描きでデザインを制作する人の場合は塗料や絵の具類の臭いが発生するかもしれませんが、それも近隣の迷惑になるレベルではないので、トラブルの原因となる可能性は低いといえます。

5.入居者の見極めが大事

本来は住居のためのマンションを事務所に利用したいと考える人の意向や事情はさまざまです。その事情によっては事務所として利用しても問題がないと判断できるケースもあるでしょうし、どんな人なのかを見極めたうえで問題ないと思える場合もあると思います。本文中では業種の見極めについて解説しましたが、最後はどんな人であるかが決め手になります。

人を見極めて入居の可否を判断するのは事務所利用だけに限ったことではなく、住居として住みたいと申し出ている人であっても同じです。トラブルを未然に防ぐには人の見極めがとても重要なので、不動産投資家としての経験を積むことで「見極め力」も高める努力をしたいところです。

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