資産運用

賃貸物件を生前贈与するときの注意点

生前贈与とは、その名の通り生きているうちに財産を譲ることです。生前贈与することで相続財産を減らし相続税の節税ができ、早い時期に相続人が財産を活用できるメリットがあります。

■生前贈与が増える背景には相続税の増税がある

生前贈与が増えている理由の一つに、2015年1月から施行された実質的な相続税の増税があります。改正後は以下に示すように相続税の基礎控除額が大幅に減額されることで、課税対象になる財産が増えるのです。

●改正前の基礎控除

 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数

●改正後の基礎控除

 3,000万円+600万円×法定相続人の数

この増税に備える上で誰もが考えるのが、生きているうちに少しでも相続財産を減らすことでしょう。控除額以内であれば問題ないのですが、控除額を超える相続財産があるなら節税対策が重要な課題になります。

生前贈与の節税術

被相続人が生きているうちに、その財産を子や孫の世代が活用できる制度があります。上手く使えば、若い世代でも住宅の取得や増改築が容易になります。しかしこれらの制度には、それぞれにメリットとデメリット、そして注意点があります。

●暦年贈与

年間(1月1日~12月31日)で110万円以内であれば、贈与税はかかりません。この制度を利用して毎年110万円の贈与をすれば、徐々に相続財産を移行することができます。

しかしこの制度を利用する際は、注意しなければならない点がいくつかあります。第一に贈与したことと、その金額の記録を残しておくことです。110万円以内の贈与であることを証明するために、現金で手渡しするのではなく口座振り込みを利用する方が賢明でしょう。

次に税務署に連年贈与と判断されないようにしておくことです。たとえば、1,000万円を贈与したいので、毎年100万円ずつ10年に渡って贈与するとします。その場合、最初の年に1,000万円を10年に分割して贈与する連年贈与と税務署に判断され、贈与税が課税される恐れがあります。税務署に連年贈与と指摘されないようにするには、年毎に贈与する時期や金額を変えて行うとよいでしょう。

もう一点、贈与した年から3年以内に贈与者が死亡した場合は、相続税の課税対象になります。しかし、これは受贈者が相続人の場合なので、相続人にならない贈与者の孫や子供の配偶者に贈与しておけば相続税の対象外になります。

●「2,500万まで無税」相続時精算課税制度の仕組み

これは最高2,500万円まで被相続者が無税で子や孫に生前贈与できる制度です。ただし、被相続者が死亡した後には、相続税の対象になります。つまり、一旦税金を払わずに使えるだけで、実質的には無税ではないということです。

相続する賃貸物件の評価額が控除額以内なら相続税はかかりませんが、控除額を超えた分には相続税が課税されます。被相続人が死亡した後に課税されるのであればメリットがないように思われますが、この制度のメリットは被相続人が存命中でも子や孫が必要なタイミングで資産を活用できる点です。

適用対象者
・贈与者は贈与をした年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母
・受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上の子または孫
(注:養子縁組をしていない義父母からの贈与は対象外)

この制度を利用すると、築年数の古い賃貸物件をそのまま譲り受け、リノベーションをして資産価値を上げることが可能です。被相続者が死亡すると相続税の評価額は贈与時の時価を基に計算されるので、増改築をする前に古いままの賃貸物件を生前贈与すれば実質的な節税になります。ただしこの制度を利用すると、その後は年間110万円の控除が受けられる暦年贈与のメリットを一切受けることができなくなります。

賃貸物件の相続ならではのメリット

土地の相続税は、基本的に路線価を基準にした課税評価額によって算出されます。賃貸用の土地は貸家建付地として低い評価で算出されるので、評価額が減額されます。地域によって異なりますが、貸家建付地は土地と建物が借地権割合と借家権割合で算出されます。

借地権割合が70%、借家権割合が30%と仮定して、路線価1億円の土地で貸家建付地の評価額は次の通りです。

1億円×(1-0.7×0.3×1)=7,900万円

建物の評価額は固定資産税の評価額なので、仮に固定資産税評価額が3,000万円の賃貸用建物であれば計算式はこのようになります。

3,000万円×(1-0.3×1)=2,100万円

通常なら1億3,000万円の評価額が、賃貸物件だと1億円になり3,000万円も減額されることになります。

不動産における相続税の評価額は、取得額や時価より低くなります。現金ではなく不動産で残しておいたほうが節税できます。賃貸物件であれば、さらに評価額を減額できるわけです。

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