不動産投資

新耐震と旧耐震の違いは?見分ける方法や過去の地震での被害比較

日本は世界にも類を見ない地震大国であり、2024年の元旦に起きた能登半島地震でもそのことを改めて実感させられました。

日本が地震大国であることは国も認識しており、建物には厳しい耐震基準が設けられています。しかしその基準が設けられる前に建てられた建物は、旧耐震基準といって現在の厳しい基準を満たしていません。不動産投資ではマンションなどの物件を所有するため、地震によって建物がダメージを受けてしまうリスクを考慮する必要があります。そこで重要になるのが、耐震基準です。

中古物件の場合、築年数によっては旧耐震基準で建てられた物件もあります。やはり購入するのであれば新耐震基準の物件を選ぶべきですが、そもそもこの新旧の耐震基準にはどのような違いがあり、どう見分けるべきなのでしょうか。本記事では、不動産投資家が知っておくべき耐震基準について解説します。

新耐震と旧耐震の違いは?見分ける方法や過去の地震での被害比較

1.他の投資にはない不動産投資のリスクとは

株式や債券、投資信託など世の中にはさまざまな投資方法があります。その中でも不動産投資は、「所有物件を自ら運営し賃貸による賃料で収益を上げる」という他の金融商品とは異なる仕組みです。

不動産という現物資産の裏付けと賃料収入という確かな収益源を備え、法人・個人という隔たりなく確実性の高い資産運用の方法として人気を集めています。

しかし不動産投資は、現物資産に依拠しているためにさまざまな自然災害によるリスクが他の投資方法よりも高い点がデメリットです。

火災や台風などによる風災、洪水による水害などは、火災保険の活用によって被害に備えることができます。しかし地震に起因する災害については、損傷具合によって地震保険で被害額のすべてを賄うことができない場合があるのです。

そこで不動産投資家としては「地震に強い物件」を選ぶのが有効な対策となります。そのためには新旧の耐震基準を理解し、見分ける方法を身につけておくべきでしょう。

2.新耐震基準と旧耐震基準の違い

新耐震基準と旧耐震基準の違い

新耐震基準は、旧耐震基準よりも厳しい基準です。耐震基準が厳しくなった理由は言うまでもなく、それまでに何度も発生している地震で多くの建物が倒壊したため、より強い建物づくりをする必要があったからです。

耐震基準がどの程度厳しくなったのかを、それぞれの耐震基準の内容とともに解説します。

2-1.新耐震基準

耐震基準は昭和56年(1981年)に改正されました。つまり、この年以降に建てられたマンションなどは、いずれも新耐震基準です。

新耐震基準では、大規模地震として定義されている震度6から7程度の地震があったとしても建物が倒壊せず、中規模地震(震度5程度)があった場合にも損傷しないことが求められます。

2-2.旧耐震基準

旧耐震基準は、耐震基準が改正された昭和56年(1981年)の前年まで適用されていました。中規模地震として定義されている、震度5強程度の地震が発生したとしても倒壊しないことが求められます。それよりも大きな地震、つまり新耐震基準で想定されているような震度6以上の地震については規定がないため、「想定外」です。

上記の新耐震基準と比べるとかなり緩やかな基準であることが分かりますが、やはり耐震基準の改正前に起きた地震では多くの建物が倒壊し、甚大な被害へとつながりました。

3.新耐震基準か旧耐震基準かを見分ける方法

耐震基準の新旧を見分ける方法は、簡単です。耐震基準が改正された昭和56年(1981年)の6月1日以降の建物であれば新耐震基準で、同年の5月31日までであれば旧耐震基準の可能性が高いでしょう。

この「建物が建てられた日」については、建築確認日に注目します。建物が完成した日には竣工日などもありますが、法的な完成日は建築確認日です。建築申請が受理されると、申請者には確認通知書が返却されます。新旧どちらの耐震基準か知りたい建物の確認通知書で「確認年月日」がいつになっているかを見ると判断できます。

物件によっては新耐震基準に改正されることを見越して、旧耐震基準の確認年月日であっても新耐震基準を満たしている場合があります。

4.過去の地震での新旧耐震基準物件の被害比較

実際に起きた大地震で、新旧の耐震基準で被害状況にどれだけの差が生じたのでしょうか。その差が顕著に表れたのが、2016年4月に起きた熊本地震です。2016年なのですでに耐震基準は改正後ですが、既存の建物の中には旧耐震基準のものも多く、新旧の耐震基準で被害に大きな差がありました。

こちらは、国土交通省住宅局が作成したレポートにある、木造住宅の被害状況比較です。

国土交通省住宅局が作成したレポートにある、木造住宅の被害状況比較

出典:国土交通省住宅局 「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント

昭和56年5月以前、つまり旧耐震基準の木造建築物は28.2%が倒壊しました。その一方で昭和56年6月以降、つまり新耐震基準では倒壊率が8.7%に抑えられており、耐震基準の強化が奏功していることが見て取れます。

不動産を所有するのであれば、新耐震基準を選ぶべきであることは明らかです。

5.旧耐震基準の建物で発生する可能性がある費用

仮に旧耐震基準の建物を購入・所有する場合、さまざまな費用が発生する可能性があります。その中で主なものを3つピックアップしました。

5-1.耐震基準適合証明書の取得費用

旧耐震基準の建物を購入する際に銀行などの金融機関で融資を利用する場合、耐震基準適合証明書を求められることがあります。耐震基準適合書は指定性能評価機関もしくは建築士などの専門家に依頼する必要があります。費用は依頼先によって異なりますが、おおむね5万円台です。

5-2.エレベーターリニューアル工事費用

旧耐震基準の建物にエレベーターが設置されている場合、そのエレベーターも安全基準を満たしていない可能性があります。

エレベーターのリニューアルと聞くと大きな金額を想像する方は多いと思いますが、新基準のエレベーターにリニューアルするには800万円から1,000万円前後の費用が発生します。

5-3.保険の割増費用

火災保険や地震保険に加入する際にも、旧耐震基準の建物は地震が発生した時の倒壊リスクが高いため、保険料も割高になります。火災保険自体がそれほど高額なものではありませんが、リスクが高くなるのに比例して保険料が高くなることは避けられません

6.将来の安心のために、選ぶなら「新耐震」

基本的に不動産は、立地条件の良い場所から建っていく傾向です。そのため不動産投資において立地条件にこだわっていくと、築年数が古い建物が候補となることがあるでしょう。実際、古い建物でもリノベーションで見栄えや機能性を高められることから、好立地で比較的購入価格を抑えられる中古物件は一定の支持を集めています。

しかし、耐震性に関して新旧の耐震基準で大きな差があるのも事実です。また築年数の古いマンションでは「耐震診断が行われていない」「必要な耐震改修工事が実施されていない」など管理組合の震災対策が十分でないケースもあるでしょう。

旧耐震で震災対策も不十分なマンションを購入した場合、もし震災でマンションが大きな損傷を受けてしまうと復旧までに時間を要してしまいます。物件が大きなダメージを受けて入居者が住めないような状態では、その間家賃収入が入らなくなるだけでなく賃貸借契約の解約などの事態に陥るかもしれません。そうなるとローン返済の資金繰りにも影響が出てくるでしょう。

気象庁地震火山部によると今後30年以内に南海トラフ沿いの大規模地震が起こる確率は70~80%といわれています。こうしたことを踏まえると、これから不動産投資を考えている人が長期的に安定した賃貸経営を行うためには、中古マンションでも昭和56年(1981年)6月1日以降に建築確認された「新耐震」のマンションを選ぶのが賢明だといえるでしょう。

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