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不動産投資
不動産投資の減価償却とは?仕組みやサラリーマンでも節税につながる理由を解説
「減価償却」は不動産投資に関して調べていくと、必ず出てくる言葉です。しかし、専門的な知識が必要になるため、これから勉強をして不動産投資をスタートしようという方にとっては、少しハードルが高く感じられるかもしれません。
実際には、減価償却のことがなんとなくしかわからなくても、不動産投資はスタートできます。しかし、減価償却を少しでも理解しておくことで、より安心して最初の一歩を踏み出せるだけでなく、税金面でのメリットも得られやすくなります。特に減価償却費は、現金支出を伴わない経費として節税に役立ちます。
本記事では、会計や税務の専門知識がなくてもわかるように、不動産投資における減価償却の基本を初心者目線で解説します。

1.不動産投資における減価償却とは?おさらい3ポイント
不動産投資における減価償却とは、購入した物件の費用を一度に全額経費として計上するのではなく、「法定耐用年数」に基づいて、毎年分割して経費にする方法です。法定耐用年数とは、物件や設備がどのくらいの期間使用できるかを示す基準のことで、この基準に従って経費を計上していきます。

本章では、もう少しわかりやすく、次の3つの視点から減価償却について見ていきましょう。
- なぜ購入費用を分割するのか
- どんなときに使うものなのか
- 減価償却費の計算方法
1-1.なぜ購入費用を分割するのか
不動産の購入費用を分けて経費にするのには、会計や税務の観点から、次の2つの理由があります。
1-1-1.経営状態を正確に把握するため
多くの賃貸物件は、手頃な区分マンションでも数百万円、一般的には数千万円という大きな買い物です。これだけの金額を一度に経費計上してしまうと、その年の賃料収入が購入金額を上回らない限り、必ず赤字になります。
会計や税務は、お金やモノの取引を記録し、収支や財政状態などをまとめ、より健全で社会的に貢献できるビジネスを行うためにあります。不動産経営には、物件以外にもさまざまなお金の出入りがありますが、大きな金額を一度に経費として計上してしまうと、実際の経営状態が全くわからなくなってしまいます。
その結果、正しい経営判断ができなくなることを避けるため、年度ごとに経費の大きな偏りが起きないように工夫されています。
1-1-2.物件の正確な価値を知るため
減価償却には、時間の経過や使用によってモノの価値が下がるという基本的な考え方があります。そのため、投資物件の価値も毎年少しずつ目減りし、それに伴い市場価値も変化していきます。
会計や税務では、正確な経営状況や資産状況を把握するため、毎年の物件価値を適切に反映して収支や資産管理を行います。そのため、減少した物件価値を正確に帳簿に記録しておく必要があります。
1-2.どんなときに使うものなのか
不動産投資で減価償却を活用する場面は、主に以下の2つです。
1-2-1.確定申告
不動産収入から必要経費を引いた金額が年間20万円以上(給与以外の所得の場合)になると、確定申告をしなければなりません。減価償却費は、現金支出を伴わない経費として計上できるため、所得を少なく見せることができ、結果的に税金を減らすことにつながります。
1-2-2.物件売却時
不動産投資物件を売却する際は、売却価格から必要経費を差し引いた金額(譲渡所得)を申告する必要があります。必要経費には、売却した不動産を購入した際の金額(取得費)を記入しますが、この取得費から減価償却費を差し引いた金額が実際の必要経費となります。
つまり、会計や税務では、購入時の金額から使用した分の価値(減価償却費)を差し引いたものを、その時点での実際の価値として扱うのです。
1-3.減価償却費の計算方法
不動産投資において減価償却費を計算する際、一般的に用いられるのが「定額法」です。この方法では、毎年の減価償却費が一定額となります。定額法の計算式は、以下の通りです。
定額法の償却率は、資産の法定耐用年数に応じて設定されており、国税庁の「減価償却資産の償却率表」で確認することができます。
例えば、鉄筋コンクリート造の新築区分マンションを3,000万円で購入した場合、「法定耐用年数」は47年で、償却率は2.2%です。計算式に当てはめると次のようになります。
この場合、法定耐用年数47年の間、毎年66万円を減価償却できるということになります。
※設備の償却率など細かな数値は計算に含んでいません
2.減価償却が不動産投資で節税につながる3つの理由
本章では、なぜ減価償却が「節税」につながるのかを解説します。近年、不動産投資を始める方にはサラリーマンが多いことから、給与所得がある方の視点を中心にまとめています。
- あくまで帳簿上の支出だから
- 損益通算ができるから
- 税金還付もあるから
2-1.あくまで帳簿上の支出だから
所得税は、収入から経費を差し引いた金額に対してかかる税金です。不動産投資の場合、賃料収入から必要経費を差し引いた金額が「不動産所得」となります。
経費が多くなると利益(不動産所得)が減るため、その分課税対象となる金額が小さくなり、結果として税金を抑えることができます。減価償却費は、会計上の経費として扱われるもので、物件の購入費用を少しずつ分割して経費に計上する仕組みです。
つまり、実際には現金を支出していないにもかかわらず、帳簿上では大きな経費として計上されます。これにより、所得税が軽減され、手元に残る金額が増えることにつながります
2-2.損益通算ができるから
サラリーマンの場合、毎月の給与から会社で源泉徴収が行われているため、自分で確定申告をする必要はありません。しかし不動産投資を始めると、毎年、不動産所得について自分で申告を行う必要があります。
その際に活用できるのが「損益通算」です。損益通算とは、不動産投資で発生した赤字を他の所得と相殺し、課税対象額を減らす仕組みのことです。不動産所得が赤字の場合、その赤字を給与所得などの総合課税所得と相殺することで、年間の課税所得を減らすことができます。
さらに、不動産投資では通常の賃貸経営にかかる必要経費に加え、減価償却費のように毎年必ず計上できる大きな経費があります。これにより、所得税を大幅に節税できる可能性があります。
2-3.税金還付もあるから
サラリーマンの給与からは毎月所得税が源泉徴収されていますが、不動産投資の損益通算を活用すると、源泉徴収された所得税が還付されることがあります。
不動産投資を始め、確定申告のために収支をまとめると、減価償却費などの大きな経費がかかる年には、赤字が発生することがあります。赤字であれば不動産所得はゼロですから、確定申告はしなくてもよいのですが、あえて通算損益によって給与の黒字に不動産投資の赤字をぶつけて申告をし、所得全体を減らします。
その結果、毎月会社に徴収されている所得税が所得に対して払い過ぎている状態になっていれば、その払い過ぎた分が還付されます。
3.不動産投資の減価償却をもっと理解する5ポイント
減価償却は、不動産投資において大きな経費を計上できることや、損益通算で節税効果が得られること、さらに場合によっては還付金が発生することなど、不動産投資において重要な役割を果たします。ただし、減価償却があるからといって、不動産投資が必ず成功するわけではありません。
不動産投資はあくまでも投資です。資金計画や経営計画がしっかりしているからこそ、減価償却が資産形成に役立ちます。不動産投資を成功させるために、次の5つのポイントを押さえておきましょう。
- 土地は減価償却の対象外
- 減価償却は永遠に使えるわけではない
- 黒字でも経営難になることがある
- 売却でプラスマイナスゼロになることもある
- 減価償却による利益が大きい物件はある
3-1.土地は減価償却の対象外
減価償却とは、モノの価値が時間の経過や使用によって下がっていく分を、法定耐用年数にわけて経費として計上する仕組みです。しかし、土地は価値が下がらないと考えられているため、減価償却の対象にはなりません。
【考え方のポイント】
例えば、区分マンションを購入した場合、その建物が立っている土地の持ち分は減価償却の対象外です。ただし、区分マンションでは土地の割合が小さいため、影響はあまり大きくありません。一方で、戸建や一棟マンションでは土地の占める割合が大きくなるため、この点に注意する必要があります。
3-2.減価償却は永遠に使えるわけではない
減価償却を続けていくと、いずれ減価償却費が大きな経費として計上できなくなる時期が訪れます。年月とともにモノの価値が下がり、その残りの価値を残存年数で割っていく仕組みのため、減価償却費として計上できる額も徐々に小さくなります。結果として、必要経費による節税のメリットは、いつかはなくなります。
減価償却が終わると、経費として差し引ける額が大幅に減り、それまでよりも多く税金を支払う必要が出てきます。このように、不動産投資では、減価償却が終了した後のことを考慮し、長期的かつ万全な経営計画を立てることが重要です。
減価償却による節税効果は確かに魅力的ですが、永遠に続くものではありません。また、減価償却に大きく依存した経営方針では、不動産経営は成り立っても、資産拡大につながらない可能性がある点にも注意が必要です。
【考え方のポイント】
減価償却の効果をできるだけ長く活かすには、法定耐用年数の長い物件を選ぶことが一つの方法です。ただし、耐用年数が長い物件では、一度に計上できる減価償却費が小さくなります。そのため、収支を十分にシミュレーションしたうえで、自分にとって最適なバランスの物件を選ぶことが大切です。
3-3.黒字でも経営難になることがある
帳簿上では不動産経営が黒字でも、実際には経営が苦しくなる場合があります。これは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回ると発生する現象で、専門用語で「デッドクロス」と呼ばれます。
減価償却の効力は永遠ではありません。法定耐用年数が終わり、帳簿上での残存価値がゼロに近づいた物件は、それ以上減価償却ができなくなります。その結果、これまで減価償却によって経費として計上していた分がなくなり、不動産所得が増え、帳簿上では黒字化します。しかし、実際には手元資金が増えるわけではありません。黒字化に伴い所得税が増え、最悪の場合、キャッシュフローがマイナスになり、経営が逼迫することもあります。
たとえ収支がマイナスでも、ローン返済は続ける必要があります。これまでの赤字は減価償却費によるもので、実際に現金が減っていたわけではなく、手元資金でローンをまかなえていました。しかし、減価償却が終了すると、不動産収入だけでローン返済をまかなえない状況に陥り、不足分をオーナー自身が補填しなければならない可能性があります。
【考え方のポイント】
デッドクロスに備えるには、まず融資期間をなるべく長く設定することが効果的です。返済額の負担を軽くすることで、デッドクロスが発生しても返済を継続しやすくなります。
減価償却が終了した後も安定した経営を続けるためには、長期間にわたって需要が見込めるエリアで、需要の高い物件を保有することが鍵となります。また、出口戦略として売却を視野に入れ、複数の選択肢を持てる物件を選ぶことも重要です。
3-4.売却でプラスマイナスゼロになることもある
投資用不動産を売却する際は、減価償却の効果を無駄にしないためにも、売却のタイミングが重要です。
不動産を売却して利益が出た場合、その利益には譲渡所得税がかかります。
この税率は、購入からの所有期間によって異なり、5年以下で売却した場合は39.63%(短期譲渡所得)、5年を超えて売却した場合は20.315%(長期譲渡所得)が適用されます。短期譲渡所得のほうが税率が高いため、売却のタイミングを誤ると大きな税負担につながる可能性があります。
減価償却は節税効果の高い仕組みですが、短期間で売却してしまうと、節税で得たキャッシュが譲渡所得税で相殺され、手元資金が減少する可能性があります。
【考え方のポイント】
早期売却の必要がない物件を選び、長期的な運用を前提とした出口戦略を計画しましょう。特に、減価償却を活用して節税効果を最大化したい場合は、残存法定耐用年数が5年以上ある物件を選ぶことが重要です。耐用年数が短い物件の場合、減価償却を使い切った後は節税効果がなくなるため、早期売却を余儀なくされる可能性があります。
3-5.減価償却による利益が大きい物件はある
物件価格が高く、法定耐用年数が短い物件は、年間で計上できる減価償却費を多く取ることができます。具体的には、価格が高く、築年数が古い物件がこれに該当します。また、将来的な売却を考慮するなら、安定的に5年以上運用できる物件が理想です。このような物件は、都心部の駅前や駅近のエリアに多く、築年数が経過していても賃貸需要が高い高級マンションが中心となります。
【考え方のポイント】
現時点で年収が非常に高く、節税効果を最大化するために大きな減価償却費が必要な方以外は、不動産投資を始める際には、まず不動産経営がうまくいくことを前提に計画を立ててください。うまくいく不動産投資の基本は、常に需要があるエリアでニーズの高い物件を所有することです。節税を期待するのはよいですが、無理な経営計画を立てることは、資産を築くためには逆効果です。収支バランスが良く、無理のない運営を心がけて物件を選びましょう。
また、節税効果の大きさは、現時点の所得に大きく依存します。以下は、所得税の税率一覧です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、年間所得1,000万円の方が大きな減価償却費を計上することで課税所得を800万円台にまで下げることができれば、所得税率を33%から23%に引き下げることができるため、大きな節税効果が期待できます。一方、すでに税率23%の方が20%に下げた場合、節税効果はそれほど大きくはなりません。現時点の所得や将来の予測を考慮して、投資計画を立てることが大切です。
4.まとめ
減価償却は、企業や経営に関連する会計や税務で必ず登場する考え方です。一度に大きな金額を計上するのではなく、既に支払った金額を少しずつ経費として計上できるため、毎年一定の経費が所得から差し引かれ、節税につながることがご理解いただけたと思います。
不動産投資を始めたら、確定申告時に減価償却の扱いは必須となりますので、まだ余裕のある今のうちに予習や復習をしておくことをおすすめします。