インスペクションで変わる?中古住宅市場の行方
日本全国の宅建業者は2018年4月からインスペクションの説明を行うことが、法律で義務づけられます。
このインスペクションの説明義務化は、中古住宅市場の活性化が狙いといわれています。果たして本当に狙い通りに進むのでしょうか。

インスペクションとは何か?
インスペクションとは、住宅診断士が住宅の外回りや室内、床下、天井裏、設備などを点検することです。ひび割れや腐食はないか、虫食いや雨漏りはないか、ドアやシャッターは正常に動作するかなど、目視や触診、計測などで細かくチェックし結果を報告するというものです。
その種類には、不具合の有無だけを調べる1次的インスペクション、不具合の原因を解明する2次的インスペクション、リフォーム前に徹底検査する性能向上インスペクションの3つがあり、説明義務が課されるのは、1次的インスペクションです。
日本では、住まいに対する意識として、長年「持ち家志向」が高く、さらに新築が選ばれる傾向にありました。このため、中古住宅市場は欧米よりも圧倒的に小さく、全体の2割ほどのシェアしかありません。こうした状況が、全国で増加する「空き家問題」の深刻化を助長したと考えられています。
このような消費者が安心して中古住宅を売買するためには、中古住宅の品質や性能への客観的評価が明示され、取引価格や金融機関の担保評価に適切に反映されることが欠かせません。そのため、インスペクションを促す目的で今回の法改正となったのです。

カギを握る低価格物件の流通量
ただし、住宅業界の専門家の中には、インスペクションの説明義務化で、爆発的に既存住宅の流通活性化が進むとは考えていない人もいます。
そのように考えている人たちの多くは、中古住宅の流通活性化が進まない大きな理由として、低価格物件が動いていないことを指摘しています。
郊外や地方都市では、200万~600万円台の低価格物件が多く存在しています。しかし、こうした低価格物件は仲介業者にとって、かかる手間の割に手数料収入が少ないため、敬遠されがちになるというのです。
不動産売買の仲介手数料は、400万円以上の場合は「取引価格の3%+6万円」が法定上限価格となります。200万円以下の場合は同5%、200万~400万円は200万円を超えた部分に対して4%がかかります(いずれも税抜価格)。
例えば、4,000万円の物件の売買を仲介した場合、手数料は4,000万円×3%+6万円=126万円になります。これが400万円の物件だと、200万円×4%+200万円×5%=18万円、200万円の物件は200万円×5%=10万円となります。
都市部の中古マンション人気が高まる
先述した日本人の新築志向をよそに、1990年代以降、住宅の品質はそれまでに比べ向上しています。そのため、築20年程度の物件は、新築と既存住宅の間で機能や快適さにそれほどの差はなくなってきています。
まとまった土地が少ない都心部では、今後、新築物件の供給がさらに少なくなるでしょう。既存住宅しか選択肢がなくなる都市部では、インスペクションによって中古物件への理解が深まれば、より人気が高まるかもしれません。
しかし、その動きはマンションが中心になるのではないかという見方が一般的です。その理由は、戸建ての場合マンションよりも改築が容易で、ともすれば新築する傾向があるからです。
インスペクションによって日本人の新築志向に一定の歯止めがかかるようになれば、都市部の中古マンション市場は活性化されるのではないでしょうか。
一方、地方の中古住宅市場の活性化には、インスペクションだけでは不十分である可能性もあります。そのため、仲介手数料を引き上げたり、国から手数料の補助を出したりなど、さまざまな措置が検討されるかもしれません。今後の動向が注目されます。