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不動産をお持ちの賃貸オーナー必見、生前贈与と相続の違いと有効な対策

生前贈与とは、その名の通り生きているうちに財産を譲ることです。生前贈与することで相続財産を減らして相続税の節税ができ、早い時期に相続人が財産を活用できるメリットがあります。

それはどういう仕組みなのか、なぜ節税に役立つのか、そして賃貸物件を所有しているオーナーの皆さんにはどんな関わりがあるのか、こういった点を見ながら相続と生前贈与の関係について解説します。また、具体例として生前贈与を活用した3パターンの節税術もご紹介します。

1.そもそも生前贈与とは?

将来に相続が発生すると予想される人が存命のうちに財産を譲り渡すことを生前贈与といいますが、主に「生前贈与」という言葉が用いられているのは相続対策、節税を目的としたスキームに関する場面です。「生前贈与は相続対策と節税のカギを握っている」ことを念頭に置いて、最初に基礎的な知識を解説します。

1-1.贈与税の仕組み

人から人へ財産を贈与し、それが一定の条件を満たすと贈与税の課税対象になります。贈与税は贈与をする金額によって税率が変動する仕組みになっていて、贈与額が大きくなるほど税率は高くなります。この点は、相続税の税率と同じ仕組みです。

最初に、贈与税の税率一覧を見てみましょう。

基礎控除(110万円)を差し引いた贈与額 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

贈与税には基礎控除といって毎年110万円までの非課税枠があります。1年あたりの贈与額が110万円までであれば贈与税の課税対象にはなりせん。また、仮に110万円を超えた場合であっても贈与額から110万円を差し引いた金額が課税対象額となります。

1-2.生前贈与が増える背景には相続税の増税がある

生前贈与が増えている理由の一つに、2015年1月から施行された実質的な相続税の増税があります。改正後は以下に示すように相続税の基礎控除額が大幅に減額されており、課税対象となる財産が増えることになりました。

改正前の基礎控除:
5,000万円+1,000万円×法定相続人の数

改正後の基礎控除:
3,000万円+600万円×法定相続人の数

基礎控除額が引き下げられるということは、これまで非課税だったかもしれない人も相続税の課税対象に含まれる可能性が出てくるため、「増税」であるのと同時に「課税対象者の拡大」とも考えられます。

この増税と課税対象者の拡大に備えるために誰もが考えるのが、生きているうちに少しでも相続財産を減らして相続税の課税対象額を減らしておくという対策でしょう。控除額以内であれば問題ないのですが、控除額を超える相続財産があるのであれば、こうした節税対策は重要になります。

2.生前贈与を活用した節税術3選

被相続人が生きているうちに、その財産を子や孫の世代が活用できる制度があります。これを上手く使えば、若い世代でも住宅の取得や増改築が容易になりますが、これらの制度にはメリットとデメリット、そして注意点があるため、それぞれ見ていってみましょう。

2-1.生前贈与を活用した節税術その1 暦年贈与

年間(1月1日~12月31日)で110万円以内であれば基礎控除の範囲内なので、贈与税はかかりません。この制度を利用して毎年110万円の贈与をすれば、徐々に相続財産を移行することができます。

しかしこの制度を利用する際は、注意しなければならない点がいくつかあります。第一に贈与したことと、そしてその金額の記録を残しておくことです。110万円以内の贈与であることを証明するために、現金で手渡しするのではなく口座振り込みを利用すること、さらに贈与を証明するための契約書を作成しておくことも有効です。

次に税務署に連年贈与と判断されないようにしておくことです。たとえば、1,000万円を贈与したいので、毎年100万円ずつ10年に渡って贈与するとします。その場合、最初の年に1,000万円を10年に分割して贈与する連年贈与と税務署に判断され、贈与税が課税される恐れがあります。

税務署に連年贈与と指摘されないようにするためには、年毎に贈与する時期や金額を変えて行うとよいでしょう。よく用いられているテクニックとして、あえて110万円を少し超える金額を贈与する年を設けて贈与税を納税するなど、110万円を超える金額も含めてランダムにすることも有効であるとされています。

もう一点、贈与した年から3年以内に贈与者が死亡した場合は、相続税の課税対象になります。しかし、これは受贈者が相続人の場合なので、相続人にならない贈与者の孫や子供の配偶者に贈与しておけば相続税の対象外になります。

2-2.生前贈与を活用した節税術その2 相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、最高2,500万円まで被相続者が無税で子や孫に生前贈与できる制度です。ただし、「相続時精算課税」とあるように被相続者が死亡した後には相続税の対象になります。つまり生前贈与時に課税されないだけで、実質的には無税ではないということです。

相続する賃貸物件の評価額が控除額以内なら相続税はかかりませんが、控除額を超えた分には相続税が課税されます。被相続人が死亡した後に課税されるのであればメリットがないように思われますが、この制度のメリットは被相続人が存命中でも子や孫が必要なタイミングで資産を活用できる点です。

<適用対象者>

  • 贈与者は贈与をした年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母
  • 受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上の子または孫

(注:養子縁組をしていない義父母からの贈与は対象外)

この制度を利用すると、築年数の古い賃貸物件をそのまま譲り受け、贈与税の課税を回避した後でリノベーションをして資産価値を上げるといったことが可能になります。被相続者が死亡すると相続税の評価額は贈与時の時価を基に計算されるので、増改築をする前に古いままの賃貸物件を生前贈与すれば実質的な節税になります。

ただしこの制度を利用すると、その後は年間110万円の控除を受けられる暦年贈与が適用されなくなり、暦年贈与のメリットを一切受けることができなくなるので注意が必要です。

2-3.生前贈与を活用した節税術その3 各種特例の活用

生前贈与を節税に活用できるスキームは、他にもあります。以下の特例はすべて生前贈与の非課税枠を拡大できるものなので、該当する方は活用する価値が大いにあります。

  • 住宅取得資金贈与の特例(子や孫が住む住宅購入資金の贈与なら最大3,000万円まで非課税)
  • 教育資金贈与の特例(子や孫の教育資金の贈与なら最大1,500万円まで非課税)
  • 結婚子育て資金贈与の特例(20歳から49歳までの子や孫が結婚、子育てに使う資金の贈与なら最大1,000万円まで非課税)

3.生前贈与と相続は何がちがう?

相続対策として用いられることが多い生前贈与ですが、それでは相続とは具体的にどう違うのでしょうか。ここでは生前贈与の相続について、メリットとデメリットを解説します。

3-1.生前贈与のメリット・デメリット

当記事のテーマである生前贈与について、メリットとデメリットを整理しました。

<メリット>
相続対策として生前贈与を活用するメリットには、大きく分けて2つの柱があります。

1つ目は、節税効果です。すでに解説してきたように、生前贈与には毎年110万円の基礎控除があることをはじめ、さまざまな特例によって数千万円規模の非課税枠を利用できることがあります。相続だとすでに被相続人が亡くなってからの対策になるため、生前贈与であれば活用できたメリットを適用することができません。生前贈与は将来の相続と比較しながら戦略的に節税を検討できるため、節税の選択肢が広いこともメリットでしょう。

もう1つは、相続財産に関するトラブルの防止と財産の有効活用です。相続は被相続人が亡くなった時に自動的に発生するものですが、生前贈与は財産移転のタイミングを自由に決めることができます。受贈者(贈与を受ける人)にとって早い時期のほうが財産を有効に活用できるという場合であっても、生前贈与であればそれを実現できます。

<デメリット>
生前贈与のデメリットとして意識しておく必要があるのは、税務署との関わりです。先ほど連年贈与の注意点として述べたように、生前贈与は申告者の認識と税務署の認識が必ずしも一致しないリスクがあります。

連年贈与以外にも、贈与者と受贈者がそれぞれ同じ認識を持っていてそれを申告したとしても、税務署にそれを否認されると特例が適用できなくなったり、贈与税が想像以上に高額になってしまうことがあります。

生前贈与の事実をしっかりと税務署に認識させるためには、贈与者と受贈者が明確に意思表示をして、それを証拠として残す必要があります。現金手渡しなどでは否認される恐れがあるので、贈与契約書を交わして銀行振り込みを用いるなど、しっかりと証拠を残すことを心がけてください。

3-2.相続のメリット・デメリット

生前贈与に対して相続には、どんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

<メリット>
相続財産の大半が不動産である場合は、評価額を減らすことができるメリットがあります。

土地の相続税は、基本的に路線価を基準にした課税評価額によって算出されます。賃貸用の土地は貸家建付地として低い評価で算出されるので、評価額が減額されるのです。また地域によって異なりますが、貸家建付地は土地と建物が借地権割合と借家権割合で算出されます。

借地権割合が70%、借家権割合が30%と仮定して、路線価1億円の土地で貸家建付地の評価額は次の通りです。

1億円×(1-0.7×0.3×1)=7,900万円

建物の評価額は固定資産税の評価額なので、仮に固定資産税評価額が3,000万円の賃貸用建物であれば計算式はこのようになります。

3,000万円×(1-0.3×1)=2,100万円

通常なら1億3,000万円の評価額が、賃貸物件だと1億円になり3,000万円も減額されることになります。

不動産における相続税の評価額は、取得額や時価より低くなります。現金ではなく不動産で残しておいたほうが節税できます。賃貸物件であれば、さらに評価額を減額できるわけです。

<デメリット>
生前贈与に対して相続が不利になり、デメリットといえるのはフリーハンド部分の少なさゆえのトラブル発生リスクです。生前贈与はあくまでも贈与なので、贈与者は財産を渡す相手を自由に選ぶことができます。相続とは違い、それは身内の人でなくても構いません。

しかし相続では法定相続人が明確に定義されているため、たとえその中に財産を渡したくない人が含まれていても法律の規定にのっとって相続されてしまいます。遺言書を作成することによって故人の意向を表明することはできますが、法定相続人には遺留分といって一定の権利が保証されているため、それに反する意向を示したとしてもそれを完全に実行することは困難です。

特に賃貸オーナーの方々にとっての財産は不動産であることが多いわけですが、不動産は分割することの難しい財産です。それゆえに生前贈与を活用すればバランスを取り、相続トラブルを回避する余地も生まれますが、相続の場合はそのフリーハンド部分が少なくなるため、相続人同士のトラブルが起きやすくなってしまいます。

4.まとめ

不動産を多くお持ちの賃貸オーナーの方々にとって避けて通ることはできない相続の問題を、生前贈与を活用することで解決できる道筋とそのための知識とともに解説してきました。漠然とした不安をお持ちの場合、そこに少し具体的な解決の糸口が見えてきたのではないでしょうか。

生前贈与を活用するかどうかは別として、相続対策は早めに取り組むほど良い効果が期待できます。まずは生前贈与を活用するべきかどうか、その検討から始めてみてはいかがでしょうか。

3年以上勤めた会社員へ。
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