不動産投資(管理)

トラブルが発生しやすい原状回復の費用の話

新しい生活がスタートする春。転勤や卒業が多いこの時期は、賃貸住宅の退去費用をめぐるトラブルが発生しやすく、行政機関などに寄せられる相談件数が増えます。国土交通省もガイドラインを設けてトラブル回避に乗り出していますが、借主と貸主お互いが事前に取り決めをしておくことが、争いを回避することになりそうです。

退去時にトラブルになりがちな原状回復

「できるだけ元の状態に戻してから退去してほしい」と考える貸主と、「なるべくお金をかけずに退去したい」という借主。立場が違うことから、修繕費用について見解の相違が生じ、トラブルに発展することがあります。

これまで貸主の中には、借主は不動産に関する知識が少ないことから、「原状回復」の意味を最大限に広く解釈し、あれもこれも借主負担を要求するケースがありました。借主も、交渉が長引くことやトラブルを避けたいとの気持ちを優先し、言われるままに対応することがあります。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は必読

国土交通省が1998年にまとめた、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」というものがあります。トラブルで最も大きな「原状回復の費用負担のあり方」について妥当と考えられる一般的な基準を定めました。その後、42の判例のほか、具体的事項のQ&Aの追加などの改訂を行い、より精度の高いものにしています。ただ、法的拘束力はなくあくまで参考のためのものという位置づけです。

ポイントは、これまで定義があいまいだったために、トラブルになりがちだった「原状回復」について初めて明確化したことです。「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とし、原状回復は「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」と、記載されています。

さらに、定義の文中にある「通常の使用」についても言及しています。「賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用などによる結果とはいえないもの)」と「基本的には通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるが、その後の手入れなどの管理が悪く、損耗などが発生または拡大したと考えられるもの」については、「賃借人に原状回復義務がある」としました。

ガイドラインから、借主負担となる具体例を挙げてみます。

・ カーペットに飲み物をこぼしたことによるシミ、カビ
・ 引っ越し作業で生じたひっかき傷
・ フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことによるもの)
・ キャスター付きの椅子などによるフローリングの傷、へこみ
・ 壁などの釘穴、ネジ穴(下地ボードの貼り替えが必要になるもの)
・ エアコン(賃借人所有)から水漏れし、放置したために壁が腐食
・ 天井に直接つけた照明器具の跡
・ 結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ
・ 台所の油汚れ
・ 飼育ペットによる柱などの傷
・ 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損

ガイドラインは賃貸マンションのオーナーにとって必読書です。書面は国土交通省の公式サイトからダウンロードできます。

トラブル回避に必要なこと

国土交通省はトラブルを未然に防止するために、賃貸借契約の退去時の問題として、原状回復の問題を捉えるのではなく、入居時の問題と捉えることを提案しています。

具体的には「入退去時における損耗などの有無など物件の状況を確認しておくこと」「契約締結時に原状回復などの契約条件を当事者双方がよく確認すること」「納得した上で契約を締結すること」の3点です。

相反する利益について、貸主と借主が揉めることなく折り合いをつけるためには、「このケースはこうする」と事前に取り決めておくのがベストだと言えそうです。その時は口頭だけでなく、書面で取り決めを残しておくことが大切でしょう。

また、いくらガイドラインに法的拘束力がないとはいっても、ガイドラインから逸脱した内容を特約として契約書に記すのもやめておいた方がいいでしょう。たとえば、「通常の使用範囲内での損耗でも借主負担とする」「壁のクロスは全面張り替え費用を借主負担とする」などです。こうしたことは契約書に記載されていても、不当請求として無効になるでしょう。

どこまでがセーフで、どこからがアウトなのかは、過去の判例を調べると参考になります。情報を集めて、慎重に判断することをおすすめします。

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